
執筆:遠藤雅裕(中央大学法学部教授)

台湾は九州にも満たないくらいの大きさの島ですが、多くのことばが使われています。ここで取り上げる台湾の標準中国語(「台湾華語」あるいは「台湾国語」)以外にも、中国語(漢語)系のことばである台湾語(「ホーロー語」「
(びんなん)語」とも呼ばれる)や客家(はっか)語が話されています。また、マレー語と同系統である先住民のことばも使われています。これらのことばのなかでは、台湾語を話す人びとが最も多く、台湾の全人口の4分の3程度を占めています。標準中国語以外のこれらのことばは「母語」と呼ばれています。母語は、日本植民地時代から国民党政権時代にかけては、抑圧の対象でした。しかし、ここ20年ばかりの間に、母語の復権が進み、学校で教えられるほか、公共の放送や演説、またテレビやラジオなどのメディアでも盛んに使われるようになっています。

台湾は、1945年の日本の敗戦後、国民党政権(中華民国)に接収され、それとともに、北京語を基礎とした標準中国語が持ち込まれました。これは「国家のことば」ということで「國語(
)」と呼ばれており、現在でもこの呼称が広く使われています。その後、標準中国語普及策が強権を伴って行われたために、今では標準中国語を第一言語とする人々が多くなってきています。家庭や地域社会などではそれぞれの母語を話しても、知らない相手に話し掛ける場合や公的な場では、標準中国語を話す傾向があります。また、上で紹介した母語復権政策とは裏腹に、自分の親に対しては母語を使っても、自分の子どもたちには標準中国語しか使わないという傾向も見られます。
台湾の標準中国語は、中華人民共和国(以下「中国」と略称)の標準中国語(以下「普通話」と略称)と基本的に同じです。しかし、さまざまな原因で、両者は異なったものとなっています。この原因としては、主に言語政策によるものと自然発生的なものの二つがあります。まず言語政策の相違によって、文字や字音など、規範レベルで違いが生じています。また自然発生的なものとしては、母語の影響が指摘できます。これにより、発音・語彙や文法特徴について使用レベルで違いが生じています。
このような標準中国語は従来「台湾国語」と称されていましたが、このことばには「なまった」「正しくない」というマイナスのイメージがないわけではありません。そこで、ここではより中立的と思われる「台湾華語」という呼び名で、この標準中国語を呼ぶことにします。
なお、台湾華語に見える特徴は、必ずしも台湾に限定されたものではありません。中国南方の普通話やシンガポール・マレーシアをはじめとした東南アジア華語と共通する特徴も少なくありません。また、台湾華語の言い回しが中国でも受け入れられたり、さらにはそれがはやったりする場合もあります。たとえば、台湾起源と考えられる「
」(パーティー)、「
」(がんばる)などといったことばが、最近は中国でも使われています。