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中国でも日本と同じ漢字を使っていると考えてはいけない。大陸では、中華人民共和国が成立してから、・一つの字でいくつかの書き方のある漢字の整理(1955年)、・漢字の筆画の簡略化('56年)、・手書き体による通用字形の制定('64年)など文字改革の諸施策によって、いわゆる略字ばかりでなく、日中両国間で字形の異なる漢字が一挙に増えた。これらの文字施策は台湾などには及ばないため、中国語を学ぶものは日本の常用漢字が採用する字形に加え、中国の旧字(繁体字)と新字(簡体字)の字形も覚えることになる。
このように字形の違いが大きくなったため、新聞紙上で日中双方の略字を統一したいといった意見をよく見かける。しかし中国の略字には、数百年も用いている俗字の採用や同じ字音の漢字を使った当て字が多く、実現は難しい。そもそも双方の言語が異なるのに、字形をそろえれば意味がわかるとでもいうのだろうか。中国語を学ばなければ、中国における漢字の用法もわかるはずがない。用法どころか双方で使用している字種でさえ異なる例が少なくない。例えば曜日を日曜、月曜とは呼ばないから、中国人は曜の字を見ることがない。また、犬は文語で、口語では狗を使う。
同じ一つの漢字でも、日中双方の字音が異なることはいうまでもない。字音のよく似た例がないわけではないが、その漢字が日本に伝来したときの字音が中国の現代語にも残っているためで、大半は現代語に至るまでに中国の字音が変化している。たとえば、子という字を日本語では、帽子(シ)、椅子(ス)、餃子(ザ)などと読み分けるが、それぞれの品物が日本に入って来たころの、中国の字音を反映したもので、餃子のザは現代語の方言音を反映している。

漢字を指して表意文字というが、実は漢字の構成法で形声文字と呼ぶ一類は、へん(偏)とつくり(旁)から作られていて、前者は意味を示す意符、後者は字音を示す音符となっている。たとえば、晴・清・精・請などはいずれも青を音符としている。形声文字は漢字の総数の80パーセント以上を占めるというから、漢字も表意文字とばかりはいいきれない。
しかし、それにしてもアルファベットを使うのとは違い、漢字から字音を正確に知ることはできない。そこでローマ字が登場する。現在、大陸で広く用いられているローマ字は'58年に制定されたもので、 音字母(ピンイン・ローマ字)と呼ぶ。英語のアルファベット26文字の範囲で表記できるが、清音である無気音を濁音字で示すなど、音の数に対して字の数が足りず無理な読み方やつづり方を強いられるところが多い。とくに初学者はこのローマ字を英語式に読んでしまう。横文字は不得手だからといって中国語を選んだら、ローマ字の読み方やつづり方ばかり学んでいる、といった笑い話もあるが、字音を記すには欠かせない道具である。国際標準化会議(ISO)も'70年代に、この中国語ローマ字表記法を公認している。ただし、単語の分かち書きなどの規則をふくめた、いわゆる正書法がまだ確立していないから、漢字に代え、このローマ字だけで中国語を書き記すことはない。

日本人の使っている漢語のすべてが、中国からの借り物ではない。なかには日本から中国に逆輸入されたものもある。たとえば、明治時代に日本人が欧米の文献を翻訳する際、中国の古典語に新しい意味を付与したり、和製漢語を作り、それらが中国語に吸収された。前者には教育・経済など、後者には電話・物理などがある。第2次大戦中には、取締・御用などいかにも時代を反映した和製漢語が中国語に加えられている。近年、日中関係が緊密になり、美容・料理など中国語に取り入れられる語が増えている。ちなみに、料理は中国語では処理するの意味で使っていた。
これらの漢語を含め、日中双方で同字同形の語彙を用いる例が多数ある。字形が、推測可能の範囲で若干異なるものまで広げれば、1冊の辞書ができるであろう。しかし、このような日中同字同形語こそ、往々にして中国語学習者がうっかり落ちてしまう落とし穴なのである。テレビのクイズに出題されるような老婆と書いて女房、、麻雀と書いてスズメを指すといった、へだたりの大きい例は対処しやすいのだが、中国語の学生は小学生もふくむとか、中国語の夫婦は日本語の夫妻で、逆に夫妻が夫婦に当たるといった微妙な例になると、差異を知らずに使ってしまうことがある。
中国語を日本語に訳す場合、日本人がとくに注意すべき点は、辞書も引かずに日本語の、しかも訓読みで判断しがちなことである。たとえば「配」という字を見て、日本人はまず「クバル」と読んでしまう。われわれの日常生活では訓読みの語彙が多く、「ハイ」と音読みしたのでは意味が浮かんでこない。しかし、中国語の意味を知るには、日本人が中国語から借りて来た漢語のなかで用例を探すべきである。配合・配偶などがそれに当たり、いずれも「配」を「取リ合ワセル」意で用いる。こうすれば中国の病院で「 ( )」という看板を「薬ヲクバルトコロ」と読むことなく、「調剤所」と理解できる。訓読みとは中国語とへだたりが大きい。総じて、日中同字同形の、そのまま読める語句ほど、辞書を引くべきである。
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