
取材・文◎原 智子 Tomoko Hara 写真◎高梨光司 Koji Takanashi

NHKのテレビ英語番組『新感覚☆キーワードで英会話』では、英単語をその語の核となっている意味「コア・イメージ」を使って理解するという田中茂範先生の新鮮なアプローチ法に大きな注目が集まった。
「英語力を身に付ける上で一番大切なのは be、have、get といった基本動詞や in、over
といった前置詞、さらに指示代名詞や一部の重要な名詞、形容詞、副詞など、あらゆるシーンで使われるような基本語を理解すること。そしてそのために大きな助けとなるのがコア・イメージなんです」と語るのは田中先生の下、コア・イメージの研究を進めてきた佐藤芳明さんだ。
佐藤さんが「英語力の土台」と強調する基本語は中学の英語の授業で習った言葉がほとんど。だが、油断してはいけない。実は、たいていの人は知っているつもりでも基本語を十分には理解していないのだ。例えばbe詞を使った例文を10個作れと言われても実際にはなかなか出てこないはず。
「専門的な言葉は語義が決まっているので、覚えるのはある意味簡単なんですよ。一方、基本語は用法が実に幅広い。辞書を見ると、膨大な語義、用例が並んでいます。例えば二つの基本語からなる take off の意味には「服を脱ぐ」と「離陸する」がありますが、訳語からすると全く関連がない。どう理解したらいいのか混乱しますよね」
こうした基本語の訳語、用例をすべて丸暗記するのは困難を極める。しかしコア・イメージを使えば、訳語に頼らずにさまざまな用例が理解できるのだ。

「コア・イメージは大人も子どもも感覚的に理解できるものです。よりスムーズに理解してもらうため、シンプルな絵やイラストでコア・イメージを示す場合もありますが、まず基本語のコア・イメージをしっかりつかみ、そのイメージから発展した表現を理解していく。これがコア・イメージを使った基本語学習のアプローチです」
ということで、佐藤さんがまず例に挙げたのがbe動詞だ(次ページコラム参照)。「beのコアは主語となるものが『ある領域にある』というイメージ。X be Y なら『XがYという領域にある』ということです。I am here.はその領域がシンプルに物理的な場所を示している場合の例です。一方抽象的な領域もあります。例えば、I am a student. は、私が生徒というカテゴリーの一員としてあるということですね。また、『ある状態の領域内にいる』という場合もあります。I am studying English now. は英語を勉強する状態という領域内に私がいるということ。このように現在進行形も、文法書を読まなくてもコア・イメージで説明できます」
佐藤さんによると基本語のコア・イメージをつかめば、さまざまな文法事項も理解できるそうだ。「have のコアは『抱え込む』というイメージ。X have Y といえば、X が Y をわが物として抱え込むイメージです。She has a nice car. は物理的な所有を示しています。では She has a taxi waiting outside. だったらどうでしょう。『外にタクシーが待っているという状況』を有している……つまり彼女はタクシーを外に待たせている、あるいは待ってもらっているということになります」

誰もが頭を悩ませた経験のある文法・現在完了形もコア・イメージから説明することができる。「I have lost my bag. これは lost my bag という状況を現在所有しているというイメージ。つまり過去になくしたバッグは現在もまだ見つかっていない状況にあるということですね。現在完了形には明確な過去を示す言葉は使えないと文法書に書いてありますが、現在完了形は過去から今に続くある状態を所有していることを表現しているので、それと過去の特定の時点を示す言葉が結びつかないのはしごく当然ですよね」。現在完了の意味がすっと腑に落ちた気がしないだろうか。
さらに基本語が組み合わさった熟語はそれぞれのコア・イメージを「融合」させて考えていく。例えば take over。take のコアは『何かを自分の領域に取り込む』で、over のコアは『障害物の上を弧を描いて越える』だが、この2つのコア・イメージを融合させると、『障害物を超えて何かを自分の領域に取り込む』というイメージになる。
「I took over my father's business. なら父親のビジネス全体が私の中に取り込まれた、つまり父親の商売を『引き継いだ』という意味になります。一方、They took over our company. だったら彼らが(全体を覆うようにして)わが社を取り込むということで、日本語では『A社がB社を乗っ取る』という意味になるわけです」