執筆 まつだあいこ

パンチドランク・ラブ

パンチドランク・ラブ
PUNCH DRUNK LOVE
監督:ポール・卜一マス・アンダーソン
出演:アダム・サンドラー、エミリー・ワトソン
発売元:ポニーキャニオン、アーティストフィルム
販売元: アーティストフィルム

優しい心の持ち主だが、7人の姉たちにガミガミ言われると時々ブチ切れてしまうバリー。彼の元へ、突然の眩暈のように恋がやってきた。大きな瞳で彼を見つめる女性リナに初めて理解され、ぎこちないながらも二人は、すぐに恋に落ちる。ところがキャリアウーマンのリナとは会えないこともしばしば。ハワイに出張する彼女と一緒にいるためにバリー名案を思いついた。食品会社の商品を買うと航空会社のマイルがもらえるキャンペーンで、マイルを貯めるのだ。街中のスーパーから1コ25セントのプリンを買い占めたパリー。ところが、さらにバリーに災難がふりかかり…。


グッドとフード

 今回は、訳出に補足や言い換えが必要な単語をピックアップしました。


プランジャ

 バリーが劇中で客に薦めているのは自社開発したトイレ用品です。

BARRY: We back our plungers 100% and we do ask for a 30 to 60 day display on the floor.....
(プランジャの話に戻りましょう。30〜60日のディスプレイをお願いしたく...)

<字幕>
“ツマリトール”は従来の/吸盤棒のイメージを一新

パンチドランク・ラブ

 字幕ではユニークな商品名と訳語になっているplungerは、トイレの「詰まり」を「取る」器具。日本でも比較的流通していますから、見たことがある人は多いでしょう。ただ、日本での正式名称とされている「通水カップ」「ラバーカップ」では今ひとつピンときません。「プランジャ」とそのまま表記している辞書もありますし、「吸引カップ」「吸引器」として紹介されている場合もあります。また、俗には使ったときの音から「スッポン」「バコバコ」などとまで言われており、まだ定訳はないようです。こんな時はセリフの前後関係のバランスをとりながら、説明を盛り込んだ訳出の工夫が求められます。

 なお、このあとバリーは「ラスベガスのホテルからサイコロをあしらったタイプを受注している」と語っていますが、まんざらウソではありません。plungerはアメリカのトイレの定番アイテム。それだけに種類も豊富なんです。最近は収納ケースに趣向を凝らしたものが多いとか。


フードとグッド

 バリーは親戚の集まるパーティで姉夫婦と挨拶をかわします。

BROTHER IN LOW: How's it going? How's the work?
BARRY: Business is very food, thanks.
SISTER: What's “very food”?
(中略)
BARRY: I'm sorry. I meant to say good.
(義理の兄:元気かい?仕事はどう?
バリー:仕事は「フード」だ、どうも。
姉:何が「フード」ですって?
(中略)
バリー:ごめん。「グッド」って言うつもりだったんだ。)

<字幕>
調子は どうだい?
仕事の方は うまうま
“うまうま”って何よ
(中略)
“うまく”って言うつもりで

 食品の特典でひと儲けしようと思っていたせいか、つい「グッド」と言うべきところを発音の似た「フード」と言ってしまったバリー。でも、これは日本語にそのまま訳しても意味が伝わりません。こんな時には流れを損なわないような言い換えが必要です。「まんぷく」と「まんぞく」という組み合わせでも良さそうです。

 お姉さんの容赦ない揚げ足取りに弟はタジタジ。義理のお兄さんは「お腹が空いていたからじゃないか?」とフォローしています。


ライブなラブ

 バリーはクーポン券を切り取りながら、ふとある電話番号が大きく表示された紙面広告に目をひかれます。

Are you ready for an intimate affair?
Find Love, Talk live! $1.99
(濃厚な情事はいかが? 愛をみつけて、ナマで語って、1ドル99セント)

<字幕>
“ホットな お付き合いしない?”
“テレフォン・ラブ/1ドル99セント”

 視聴者には、この広告が一目でテレホン・セックスのものであると知ってもらうことが大切です。しかし、広告には直接的な語が入っていません。日本での類似広告もキャッチフレーズは遠まわしなものが多いですよね。
 英語では、loveとliveの韻を踏んだリズミカルなキャッチフレーズです。一方、字幕ではここで、風俗の有料電話であるという情報を優先させています。「テレフォン・ラブ」は健全なJポップの曲名にもあるようですが、ここではこの語と広告写真の雰囲気との組み合わせにより、意図が明確になっています。

 あとでバリーが恋人となったリナにこの電話のことを打ち明ける時には、“I called a phone sex line before I met you(君に出会う前にテレホン・セックスを利用した)”とはっきり言っています。


 ちなみに、邦題ではそのままカタカナになっている本作のタイトル“punch-drunk love”中の語、punch-drunk は、ボクサーなどが頭を打たれすぎて脳の機能障害が起きた状態のこと。口語としては「頭がくらくらした、混乱した」と形容したい時に使います。確かにバリーは物理的にも精神的にも強烈なパンチを食らいながら恋を実らせています。
 こんな恋、あなたはどんな日本語にしますか?

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