| 日本語の本が読み通せなければ、あなたは「つまんないから」とか「難しすぎるから」とか「アホらしすぎるから」とかいろいろ理由を挙げることだろう。ところが、英語の本が読み通せず途中で挫折してしまうと、なんとなく、すべて自分の英語力のせいにしてしまわないだろうか。
同じように、初対面の外国人と話して、ろくに言葉が出てこないときも、やはり自分の英語力のせいにわれわれはしてしまいがちであるように思う。でも日本人同士だって、特に初対面なんかだと、うまく話せないことは多いのだ。まあ中身のない相づちくらいは、母語ならそれなりに出てくるかもしれない。だけどそんなもの、どれだけ意味があるのか?
いずれにせよ、英語の本が読み通せない理由は、あなたの英語力以外にもいろいろありうるのだから、読み通したければ、そういう理由をなるべくあらかじめ取り除いておくのがいいということになる。そしてそういう理由のうち最大のものはやはり、「内容に興味が持てない」だろうと思うから、いつも日本語で自分が楽しんでいるような内容のものを選ぶのがいい(まあもちろん、そういう「ハズレなし」志向にも問題はあって、何がなんだかわからずに選んで、世界観を変えてくれるようなものに出合う、といった可能性は低くなってしまうが……)。
そういうわけで、以下に挙げる5冊も、「最大多数の最大幸福」を目指したものでしかなくて、あなたにおすすめできるかどうかは、あなたの顔が見えない以上、僕にはわからないのですが、まあそういうことを言い出すと何も言えなくなるので、僕自身が仮に今ほど英語力がなくても(まあ今だって大してないけど)かなりの確率で面白がれるんじゃないかと思える小説を挙げる(小説に限定したのは、日ごろそういうものしか読んでないからです。あしからず)。
Kazuo Ishiguro, The Remains of the Day
Paul Auster, Moon Palace
――比較的読みやすい英語の小説を挙げよ、と言われると大体いつもまずこの2冊を挙げる。 は老執事の回想の中から、無駄に生きられた(と言えるかもしれない)人生の哀しさが浮かび上がってきて、無器用な老執事に共感させられる。 は1960年代アメリカを背景にした青春小説。これも考えてみれば無器用な若者に共感するところが鍵か。 は10代のうちに読むと特に「効く」みたいです。イシグロの最新作 『Never
Let Me Go』は、もう(ほんの)少し敷居が高いけどもっとすごい。
Haruki Murakami, The Elephant Vanishes
――日本語ですでに読んでいて、好ましいとわかっている文章の英訳を読むのも手だと思う。
Paul LaFarge, The Artist of the Missing
――どうせなら翻訳されていないものを読みたい、といった虚栄心を否定しても始まらない。未訳の英米近刊小説で僕が一番好きなのがこれ。ただし、死者が生者の街を訪れるというエピソードから始まるといった具合に、かなり幻想的なので、もっと現実的なものを、という人は、南北戦争前の、奴隷でない黒人たちに焦点を当てた歴史小説、エドワード・P・ジョーンズの 『The Known World』を。
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn
――19世紀の小説だし文法は破格だし方言もけっこうあるけど、いったんノリがのみ込めてしまえば、そういうのもむしろ味わい深さの一環になってくる。
おしまいにもう一点。外国語の本を読むときの永遠の問題は、「コツコツ辞書を引きながら読むべきか、それとも辞書をなるべく引かずに流れをつかむよう心がけるべきか?」である。ひとまずの個人的な答えは「両方やった方がいい」。読んでみて、この本はわりと易しい、と思ったら後者、ちょっと大変、と思ったら前者、というふうに分けるのがいいと思う。前者の極端なやり方としては、いっそ部分的に翻訳してみるとか、原文を暗記してみるとか。大学の小説の授業で、たまに「今学期に読んだ作品のなかで気に入った一節を暗記してこい」という試験をやるが、これが案外評判がいい。けっこう楽しめるらしい。楽しいということは身につくということにつながる確率が高いから、わりあい推奨できるやり方かもしれない。
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