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オーストラリアを拠点に活動されていますが、海外出張の機会も多そうですね。 |
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翻訳関連の学会に参加するため、カナダやヨーロッパ、アジア諸国などへしばしば出かけています。学会のテーマは、翻訳理論のように翻訳に直接かかわるものから、言語教授法や教育論などの関連領域まで、さまざまです。
また、大学の講師として出張することも多く、この6月も、オーストラリア大使館主催の留学フェアに合わせて、マッコーリー大学の翻訳・通訳プログラムのマーケティングを目的として日本とオーストラリアを往復してきたばかりです。 |
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学会はご自身の研究を発表されに行かれるのでしょうか? |
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もちろん自ら発表することもあります。モントリオールで3年ほど前に開かれた、METAという研究者中心の学会で、翻訳の新しい教授法について、私が専門とするPBL(Problem-Based
Learning 問題基盤型学習)の視点で発表を行いました。何人もの高名な翻訳研究者に発表を聞いてもらうことができ、とても有意義な経験でした。
学会は、自分の研究発表の場としてだけでなく、著名な研究者の発表を聞いたり、最新の研究成果を得たり、人脈を広げたりと、貴重な場です。特に翻訳理論など未発達の分野では、今後の研究の方向性を見極める意味でも、さまざまな専門家との意見交換が重要です。
学会で得た知識や人脈は、大学の教育に役立つことも多いですね。フリーランスの翻訳者として参加した学会でも、翻訳のプロを育てる教育者として話を聞くこともありますから、立場の線引きは難しいですね。 |
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翻訳者としてさまざまなお仕事をされる中で、この仕事の醍醐味が伝わるエピソードがありましたら、お教えください。 |
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翻訳者は黒子というのが私の考えです。文芸翻訳の世界ではスター翻訳者もいますが、実務翻訳ではそれはありません。立場をわきまえ、黒子に徹しなくてはならないと思います。ですから、仕事の派手さをアピールすることはできませんね。
ただ、さまざまなクライアントから翻訳の仕事をいただくので、扱う分野の幅広さは翻訳の仕事の面白さのひとつだと思います。
例えば、クライアントの製薬会社から症例報告書の翻訳を頼まれることがあります。新薬開発などにおいて、マウス実験に始まり膨大な数の臨床試験が繰り返されるわけですが、その際に作成される書類を翻訳するのが仕事です。新しい薬が生まれることで大勢の人が助かることも多いので、非常に責任のある仕事だと思って取り組んでいます。
また、かなり長いスパンで翻訳を行ったものに、かびに関する研究論文があります。最初仕事をもらったときは「かびの研究って何をするんだ?」とピンときませんでしたが、長期間翻訳を続けていくうちに、かびに関する知識や雑学が増えて、自分自身かびに本当に詳しくなりました。こういうことこそ翻訳の醍醐味かもしれません。
翻訳というと、通訳に比べて、外には出ずに机の前に座りっきりで、辞書を引いて黙々と訳し続けるといったイメージがあるかもしれませんが、それで翻訳が済むことは少ないですね。例えば、オーストラリアでは、ゴミはキャスター付きのゴミ箱に捨て、ゴミの回収車が回ってくるのに合わせて、ゴミ箱を家の外に出しておくのですが、このゴミ箱専用の洗浄機のマニュアルを翻訳したことがあります。
操作法や機械の構造がわかりづらく、またさまざまな薬品が用いられていたので、クライアントの工場にまで出向き、 この洗浄機をじっくり観察、理解したうえで翻訳を仕上げました。
家にじっとしているのではなく、わからないことはとことん調べる。クライアントとのコミュニケーションも重要な仕事のひとつになります。翻訳は孤独な仕事ではありません。クライアントが何を望んでいるのか、コミュニケーションを大切にし、相手との信頼関係をつくることが、次の仕事にもつながるのです。 |
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ビジネス文書やマニュアルが翻訳の中心になるのでしょうか? |
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ありとあらゆるものが翻訳の対象になります。ラブレターの翻訳を頼まれたこともありますよ。これがとても情熱的な英文なんですね。このまま日本語に訳してしまっていいものか、日本人はこれだけ直接的な表現をどう受け止めるだろうかと迷いもしました。ただし、受け取った相手がどう思うかで迷う前に、まずは翻訳を依頼した人の気持ちを考える。自分の役割に徹することが大切なのです。
翻訳は英語から母語である日本語に訳す仕事が多いですね。逆の場合もありますが、日本語から英語への翻訳は、仕事を受けるときにためらう場合もあります。あまりに高度な内容や難度が高い場合、優秀なチェッカーがつくことを条件に引き受けることもあります。 |
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先生ご自身がチェッカーを務められることもあるのでしょうか? |
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あります。チェッカーにもいろいろな人がいて、重箱のすみをつつくように細かい指摘をする人もいますが、あくまで最初に翻訳をした人の翻訳を尊重することが大切です。それがプロのチェッカーとしてのふるまいだと私は思います。ほかの人の翻訳を直すときは、大きな視点で、なぜ直す必要があるのか明確な理由を示しつつ、直すようにしています。 |
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オーストラリアを拠点にされている理由、またオーストラリアで活動する面白さは何でしょう? |
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最初の海外旅行先がオーストラリアで、留学先もオーストラリアだったんです。それで、オーストラリアの良さを知ったことが、オーストラリアに移住しようと考えた理由のひとつです。この国はのんびりしていて、自然も豊か、職場環境もいいですよ。マルチカルチュラルな国でいろいろな文化背景の人と知り合えるという面も捨てがたいです。翻訳には文化理解も必要ですから、それが翻訳にも役立ちます。
日本は社会全体が働き過ぎだと思います。ただし、便利さでは日本のほうが上でしょう。電車もたいてい時間通りに来ますしね。どちらの国にもよい点と悪い点があります。優先順位は人それぞれということでしょう。私はオーストラリアが気に入り、オーストラリアの翻訳・通訳の国家資格NAATI(National
Accreditation Authority for Translators & Interpreters)を取得したことで、永住権も得ました。
現代は世界中どこにいてもインターネットに接続可能です。フリーの翻訳者としては、仕事場を選ばない、いい時代です。 |
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マッコーリー大学の翻訳・通訳プログラムを担当するのはプロの翻訳・通訳者が多いのでしょうか? |
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「多い」ではなく、「すべて」プロの翻訳・通訳者です。 |
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プロの翻訳・通訳者が教えることの意義は何ですか。 |
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まず、「プロ」とは何でしょうか? さまざまな問題が発生するからプロが求められるのです。どのような問題でも解決できる人がプロなのです。プロは、問題を分析し、さまざまなオプションに対応し、解決方法を考え、さらに、なぜその解決方法を選ぶのがよいのかまで答えられなければいけません。
翻訳・通訳教育の現場でプロが必要な理由を考えてみましょう。まず、プロは翻訳や通訳を行うスキルを持っています。教師は学生たちのお手本になる必要がありますから、実践スキルがない人では教えられません。
さらにプロは現場の仕事を知っています。クライアントとのやり取り、締め切りを守って仕事を仕上げるまでの時間管理、自分の売り込み方、仕事の見つけ方、そして仕事の断り方まで。学生たちが卒業後に必要とする、本当に役立つ情報は現役の翻訳・通訳者だからこそ与えられるものです。
翻訳でも通訳でも、練習を積んだだけではプロにはなれません。授業も、油断すると、テキストを使って学生に答えさせ、教師がそれに解説をつけるだけのものになりがちですが、それではいけません。プロに必要なものは何か、その要件を理解しながら勉強を進めることが大切なのです。教師は職業上のルールも教える。そして学生たちは、学んだルールを別の授業で応用してみる。その姿勢が必要です。
教師は学生の「なぜ?」に答えられなければいけません。それができるのは、プロの翻訳・通訳者だからです。 |
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現場経験を授業に生かしたような、具体的な導入事例を教えてください。 |
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私は、学生たちに毎週翻訳の課題を与えています。その際、「これは仕事だと思いなさい」「仕事である以上、期限を必ず守りなさい」と伝えます。期限を過ぎて提出された課題は受け取りません。もちろん添削もしません。
課題内容は学期によって異なります。1学期目は一般的な雑誌の記事、2学期目はマニュアル、契約書、小説などいろいろなジャンルに挑戦。3学期目に入ると、就職活動時に会社から課される翻訳トライアルを模した課題などです。
課題に取り組む際には、読者はだれか、クライアントは何を期待しているかを考えさせ、完成度の高い翻訳を提出するように指示しています。
課題は個人で取り組むものだけではありません。例えばマニュアル翻訳は、実際の現場でも複数の翻訳者の共同作業になることが多いのですが、大学の授業でも複数の学生によるグループプロジェクトとして取り組ませます。文章レベルのチェックなど一部を除き、テキストの選択、翻訳の分担など多くの部分を学生の自主性に委ねます。翻訳に入る前に、キーワードなどの翻訳の統一ルールを決めさせ、グループ内で翻訳をすり合わせ、見直しを図り、完成にまで持っていく本番さながらのプロジェクトです。完成したものは他の学生の前で発表してもらいます。翻訳者役とクライアント役に分かれた、ロールプレイなどを行うこともあります。
授業中、私が一方的にしゃべることはありません。学生の訳を比べさせると、学生たちは「上手な表現だな」と感心したり、解釈の違いに気づいたり。質問し合って、なぜその訳にしたか理由を説明してもらうことも。ディスカッションなどを通して、常に学生が授業に参加する形を取っています。
さらに上級クラスでは、私がクライアントやエージェントになって学生に仕事の依頼のメールを送り、学生からの返信をチェックすることもあります。「ここはもう少し強い態度で出たほうがいいよ」など、クライアントとのコミュニケーションの大切さを気づかせるのも目的のひとつです。
この他、マッコーリー大学はインターンシップにも熱心に取り組んでいます。2人ひと組で、社内翻訳者の経験を積ませるのですが、ここでもクライアントや他の翻訳者とのコミュニケーションの重要さを学ぶことを重視しています。 |
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目指すべき翻訳・通訳教師像がありましたら教えてください。 |
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勉強を教える以外にも、学生を助けられることがあれば助けたいですね。私は、授業だけでなく生活面などでも、いろいろなことに相談にのります。授業が終わったら「はい、ここまで」と学生との間に線を引く先生もいますが、私は違います。ただ、中には、先生との距離が遠いほうがいいという学生もいますが。
厳しいだけの授業、緊張するだけの授業、そして教師が一方的にしゃべるだけの授業はしたくありません。私の授業では、学生たちの悪い部分は指摘するにしても、基本的にはいい部分をどんどんほめていきます。
翻訳の答えはひとつではありません。みなで調べ、それを持ち寄って議論することが大切なのです。
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プロの翻訳・通訳者ならだれでも教えられるものなのでしょうか? 先生にも向き不向きはありますか? |
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プロであれば教えられるでしょうが、すべてのプロが効果的に教えられるというものでもないでしょう。教師として、学習者にやる気を出させる方法、知識の伸ばし方などを知っている必要があります。
私は、プロの翻訳者であるのと同時に、言語の教授法も勉強していました。また、ニュー・サウス・ウェールズ州の高校で日本語を教えた経験もあります。学生をほめて育てる必要性、教師が一方的にしゃべらない大切さは、そのとき実感したことです。それらを踏まえ、学生のやる気をなくさせないように、また信頼をそこなわないように、考えながら指導を進めています。 |
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マッコーリー大学では、翻訳・通訳の指導経験者を対象にしたプログラムを開始されるそうですね。 |
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Postgraduate Diploma / Master
of Translating and Interpreting Pedagogyというもので、翻訳・通訳教育の専門的な技術や基礎知識の修得に主眼を置くプログラムです。翻訳・通訳の教授法はまだまだ開拓の余地がある研究分野で、マッコーリー大学でも多くの研究者がこの分野を研究しています。
学習者主導でどのように指導していくか、また限られた時間の中でいかに学生の学習効果を上げさせるか、教授法の研究はとても大切です。その実感が、翻訳・通訳者育成のためのプログラムに結実したということでしょう。私もPBLの観点からこのプログラムの開発に参加しています。
さらに、オーストラリアの翻訳・通訳資格NAATIが取得後3年ごとに見直されることになりました。その際、専門性の向上(professional
development)がチェックされることになったため、このプログラムは、現役の翻訳・通訳者が自分のスキルを見直すのにも役立つことでしょう。 |