文 宮脇孝雄
 Graham Greene
グレアム・グリーン(1904-91)はイギリスの小説家・劇作家で、カトリック信者。どの作品でも「神」が作者の関心の的になっている。遠藤周作が『情事の終り』を手にしてロンドンを歩きまわり、グリーンの描写法を研究したのは有名な話。ちなみに、グリーンは遠藤の『沈黙』を絶賛している。二度目の映画版(ジュリアン・ムーア、レイフ・ファインズ主演で、邦題は『ことの終わり』)が公開されたときに再刊されたので、入手は容易である。
[The End of the Affair]
by Graham Greene

情事が終わって、愛が始まる

 前回紹介したフォード・マドックス・フォードのThe Good Soldier(邦題『かくも悲しい話を……』)は、日本ではあまり知られていないのに、欧米では有名な作品で、のちの作家に多大な影響を与えている。たとえば、二十世紀中ごろのイギリスを代表する作家、グレアム・グリーンの『情事の終り』(The End of the Affair)なども、The Good Soldierを研究しつくした上で書かれた作品である。

 一人称の語り手による物語で、不倫がストーリーの中心になっていること、推理小説的な謎解きがあること、などが、フォード・マドックス・フォードとの類似点で、回想形式のストーリー・ラインが、一年前に飛び、現在に戻ったかと思うと、今度は三年前にさかのぼる、といった具合に、行ったり来たりするところもよく似ている。だいたい人の記憶とはそういうもので、きのう会った友人のことを考えているうちに、突然、子供時代の体験を思い出したりするのは、誰にでも覚えのあることだろう。

 題名のaffairには、「事柄、営為、事件、情事」などさまざまな意味があり、かつては『愛の終り』という邦題で出版されたこともあったが、今では『情事の終り』が定着している。お読みになればわかるように、これは情事が終わって愛が始まる、という話なのである。いきなり愛が終わってはいけない。

 語り手はモーリス・ベンドリックスという作家で、第二次大戦末期から戦後にかけてのロンドンが舞台になっている。モーリスは、小説の取材のため公務員のヘンリー・マイルズに近づき、ヘンリーの妻、セアラと知り合う。やがて二人は愛し合うようになるが、ある夜、自分の家でセアラと密会をしているときにドイツ軍の空爆があり、モーリスは瓦礫の山に埋もれて気を失ってしまう。そのあと、なぜか二人は疎遠になるが、戦争が終わってもモーリスはまだその情事を引きずっていて、嫉妬とともにセアラのことを思い出したりしている。その時点から物語は始まり、今、セアラがどうしているか、私立探偵を雇って調べながら、モーリスは自分たちの関係を回想する。

 前述のように、推理小説的な趣向が凝らされているので、紹介するのは難しいが、とりあえず、空爆で気を失って、目覚めるシーンを引用すれば、次のようになる。



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