文 宮脇孝雄
 Edgar Allan Poe
エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)は、怪奇幻想+論理という作風で、いまだに世界の文学に影響を与えている作家。本書は1837年に雑誌に発表され、翌年単行本になった。結末があっけないので、後世の作家によって続編も書かれている。ジュール・ベルヌの「氷のスフィンクス」やルディ・ラッカーの『空洞地球』がそれ。ポオの出身校ヴァージニア大学に、この作品の謎解きページがある。
[The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket]
by Edgar Allan Poe

現代の作家に影響を与える
短篇作家の唯一の長篇

 エドガー・アラン・ポオの小説は、各社の文庫で翻訳が出ていて、いつでも新刊書店で購入することができる。ただ、どの文庫も内容は似たり寄ったりで、「モルグ街の殺人」とか「黄金虫」とか「盗まれた手紙」とか「アッシャー家の崩壊」とか「黒猫」とか「ライジーア」とか「赤死病の仮面」とか「ウィリアム・ウィルソン」といった作品を収めた短篇集が多い。天才作家だけに、どれもおもしろいが、そういう傑作を書く前に、実は長篇小説を一冊書いていた、などという話を聞くと、それも読みたくなる。ほかの人はどうかしらないが、少なくとも私はなった。

 その唯一の長篇が、メルヴィルの『白鯨』に影響を与えたともいわれるThe Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucketである。だいぶ前に(昭和八年)、『ゴルドン・ピム物語』という題名で翻訳が出ていたそうだが、運のいいことに、私がポオに興味を持ったころ、『ナンタケット生まれのアーサー・ゴードン・ピムの物語』という題で新訳が出ていた。昭和四十四年に発行された講談社版世界文学全集の一冊である。図書館でそれを見つけたとき、小躍りしたのはいうまでもない。

 主人公のアーサー・ゴードン・ピムは、題名にあるとおり、捕鯨基地ナンタケット島の若者で、冒険心に富み、捕鯨船にひそかに乗り込んで、大海原に乗り出そうとする。船のどこかに隠れて、外洋に出たときその隠れ場所から姿を現せば、もう陸に戻されることはないと考えたのだ。正式な乗組員である友だちが協力者だし、船長はその友だちのお父さんなので、ばれても罰を受けることはないだろうとも考えていた。

 しかし、ピムが隠れているうちに船員たちが反乱を起こし、船内は大混乱に陥る。やがて事態は収拾され、反乱者はみんな海に投げ落とされるが、船に取り残されたピムは、友だちのオーガスタスや船員のパーカーと一緒にあてどなく大海をさまようことになる。

 ここから話は漂流記になるが、この部分で一番怖かったのは、漂流中、別の船とすれ違うエピソード。水や食糧が少なくなって困っていたピムたちは、これで救助されると思い込んでその船に近づくが、実はその船も漂流中で、乗っていた人たちはみんな死んでいることがわかる。つまり、死体を乗せてさまよっていたのだ。

 ここでポオお得意の死体描写が出てくる。


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