文 宮脇孝雄
 Charles Portis
Charles Portis(チャールズ・ポーティス)は1933年アーカンソー生まれの作家。全部で五冊の長篇があり、現在ではThe Overlook Pressという出版社から再刊されている。西部小説も現代小説も書いていて、優れたユーモア作家として再評価の気運が高まっているが、代表作はやはり『トゥルー・グリット』だろう。何度も読み返す愛読者が増えている。
[True Grit]
by Charles Portis

西部開拓時代の女の子版『ライ麦畑』

 今、コーエン兄弟の『トゥルー・グリット』という映画が公開されている。タイトルは原題をそのままカタカナにしたもので、グリットってなんだ? という声も聞こえてきそうだが(根性、肝っ玉、気骨の意味)、年配のかたならお気づきのように、一九六九年(もう四十二年前か)のジョン・ウェイン主演映画『勇気ある追跡』のリメイクである。原題はどちらもTrue Gritなのだから、コーエン兄弟版の邦題も『勇気ある追跡』にすればよかったのにと、高校生のときに二番館でオリジナル版を見た私などは思う。

 戦後、アメリカの小説が翻訳されて人気を博すようになったとき、どうしても売れなかったのがSFと西部小説(ウェスタン)だったという。SFは、レイ・ブラッドベリのような日本人好みの作家が登場して、だんだん売れるようになったが、西部小説は今でもほとんど紹介されていない。たとえば、エドガー・ライス・バローズという人気作家がいて、有名なターザン・シリーズを始め、火星シリーズ、地底シリーズなど、SF秘境冒険小説が何冊も紹介されているが、バローズの書いた西部小説は、たぶん一冊も訳されていない。というより、西部小説なんか書いていたの? とびっくりする読者が多いだろう。

 もちろん、ひょんなことから翻訳される西部小説もある。『勇気ある追跡』の原作、True Gritも、映画公開にあわせて一九六九年に日本版が出た。タイトルは映画と同じ『勇気ある追跡』で、訳者は三田村裕さん。三田村さんはディクスン・カーの謎解き小説の訳者でもあるが、西部小説を日本に根づかせようと孤軍奮闘していた翻訳家でもある。

 この原作、何しろ四十年以上前の本なので、ある時期から英語版も手に入らなくなっていたが、コーエン兄弟の映画をきっかけにして、最近、ペーパーバックが出まわるようになった。以前からぜひ原書で読みたいと思っていたので、私も飛びついた次第である。

 ストーリーは映画とほとんど同じ(最初の映画とは少し違う)。時代は南北戦争のすぐあとの時期。お尋ね者に父を殺されたアーカンソーに住む十四歳の少女マティ・ロスが仇討ちを決意して、ただ一人犯人の手がかりを追う。すると、父の仇、トム・チェイニイは、ギャング団の仲間になって、インディアンの土地に潜んでいるのがわかる。インディアンの土地は、通常の保安官(sheriff)ではなく、連邦裁判所執行官(marshal)の管轄なので、マティは大きな町に出かけ、町のsheriffに適当なmarshalを紹介してもらうことにする。次に引用するのは、そのときの会話である。



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