| [The Egyptian Cross Mystery]
捜査を始めると、お約束どおり、怪しげな人物が次々に登場する。イギリスのミステリの場合は、ある一族やその周辺にいるエクセントリックな人物が探偵を翻弄するのだが、『エジプト十字架の謎』の場合は、ヨーロッパから渡ってきたいわくありげな移民や、頭のおかしいカルトの指導者や、ウェスト・ヴァージニア州の山地居住者(hillman)などが読者の前に現れる。
この山地居住者というのは、山の中で暮らすホームレス的な人物で、ときおり里に下りてきて、賃仕事をしている。検視審問で証言をする第一の事件の発見者がその山地居住者で、外見は次のように描写されている。
He was dressed in tatterdemalion garments−a conglomeration of ancient clothing, torn, dirty, and patched.
「男はぼろぼろの衣装−−裂けた、薄汚い、つぎはぎだらけの、古い衣類の塊状集積を着込んでいた」。
ここでもtatterdemalion(古語、一般の作家ならtatteredと書くところ)とかconglomeration(塊状集積・集塊)といったあまり見かけない単語を使っているが、難しい、と思ってはいけない。その気取り方が稚気満々でほほえましい、と考えるのが、おもしろく読むこつである。
この第一の事件は捜査が行き詰まってしまうが、その半年後、似たような事件が、ロング・アイランドで発生する。今度の被害者は億万長者で、同じく首のない状態で、インディアンのトーテムポールにはりつけられていた。
この首なし死体というのは、ミステリの基本トリックで、おもに被害者の身元がわからなくなるようにする犯人の工作である。お気づきのとおり、今の事件であったなら、DNAや指紋の鑑定があるので、首を切ったくらいでは身元をごまかすことはできない。一九三〇年代でも捜査側には指紋の知識があったはずなのに、犯人の策略にあっさりのせられてしまうのが、今読んで不自然に感じるところである。
それを除けば、充分に納得できる、おもしろい小説で、エラリーがどう推理するかちゃんと憶えていたのに、最後の五分の一は初読時と同じようにおおいに興奮した。
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