| Mary Norton
メアリー・ノートン(1903-1992)はロンドンの医者の家に生まれ、2歳の時に田舎に引っ越す。その田舎での暮らしが「借りぐらしの小人たち」の話を書く下地になった。『床下の小人たち』(1952年)が第一作で、そのあと『野に出た小人たち』『川をくだる小人たち』『空をとぶ小人たち』『小人たちの新しい家』と、4冊の続編が書かれている。いずれも岩波少年文庫で翻訳が出ている。このシリーズ以外では、『魔法のベッド南の島へ』(1945年)が有名。 |
[The Borrowers]
by Mary Norton
推理小説の親戚の児童向けファンタジー
前回取り上げたミステリの大家、ドロシー・L・セイヤーズは評論家でもあり、有名な「探偵小説論」(一九二八年)を書いているが、その中でセイヤーズはこんなことをいっている。
「英国人は本を読むときでも物的な正確さを好む。ドイツ人やフランス人は、程度の差こそあれ、そんなものにはほとんど興味を示さず、むしろ心的な真実を求める。したがって、指紋や血痕、日付、時刻、場所などにいちいち拘泥する反面、人物描写を大胆に簡略化する探偵小説が、フランスやドイツよりアングロ・サクソンの趣味により強く訴えるのも無理からぬことである」。
イギリス人は日常生活でも本を読むときでも、何月何日の何時何分に誰それはどこにいたか、とか、書棚の一番下の段の右から三冊目にはどんな本が入っているか、といった細かい事実に興味を示す。だからこそ探偵小説が栄えたのだ、とセイヤーズは主張している。
たしかに、ドイツやフランスの小説は「心的な事実」(つまり、恋愛心理や嫉妬など)に基づく人間の研究が中心で、主人公がどんな部屋に住んでいるか、とか、どんな服を着ているか、とか、どんな日用品を使っているか、といった描写はあっさりしたもので、あまり印象に残らない。そして、めぼしい探偵小説も書かれていない。ドイツの名探偵? フランスの名探偵? いるかもしれないが、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロほど有名でないのはたしかである。
具体的な事物の描写にこだわるという特性から、探偵小説と並んでイギリス小説界の看板ともいえるもう一つのジャンルが生まれた。児童もののファンタジーである。考えてみれば、ネズビットの『砂の妖精』やトラヴァースの『メアリー・ポピンズ』といった日常生活と異界が隣り合わせになった作品でも、グレアムの『たのしい川べ』やトールキンの『ホビットの冒険』といった、最初から人間ではない主人公(前者はカエル、後者はホビット族)が出てくる作品でも、イギリスの児童ファンタジーは、細部の精密な描写が読みどころだ。
そのあたりの事情は、メアリー・ノートンの『床下の小人たち』でも同じ。スタジオジブリが『借りぐらしのアリエッティ』という題でアニメ化した作品なので、お話はご存じですね。
イギリスの古風な家の床下には、小人の一家が住んでいることがある。ただし、この小人、魔法が使えるわけではなく、ただのちっちゃい人である。食べ物や日用品などは人間のものを拝借してくるので、この小人はborrower(借りる人)と呼ばれている。翻訳(林容吉・訳、岩波書店)では「借りぐらしの小人」と訳されていて、お見事である。
その借りぐらしの小人であるクロック一家が主人公。お父さんはポッド、お母さんはホミリーといい、その娘がアリエッティである。なぜ「クロック(時計)一家」かというと、人間が住むお屋敷の、大時計の下の穴が、この一家のすみかにつながっているから。
そこを通ってお父さんのポッドが人間の居住区域に忍び込み、いろいろなものを「借りて」くる通路は、次のように描写されている。
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