文 押味貴之

医療通訳のコスト負担

 愛知県で「あいち医療通訳システム」が始まった。これは愛知県と県内で通訳養成を行っている3つの大学とが連携して、医療通訳者を養成・認定・派遣するという取り組みだ。大阪府吹田市が医療通訳の認定を行った前例はあるが、都道府県が認定を行うのは全国初の取り組みだ。

 通訳対象言語は英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語の4言語。743名の応募から選抜試験をくぐり抜けた99名の医療通訳候補者が、7月から8月にかけて合計36時間に及ぶ研修を受けている。講師にはプロ通訳者、医師、薬剤師や行政書士など各分野の専門家がそろう。各言語に分かれてみっちりと実習を行った後、十分な知識と技術が備わっていると判断されれば認定医療通訳者として登録される。私も講師として参加しているが、密度が高く充実したプログラムであると実感している。

 ところで、このような充実したプログラムのコストを誰が負担しているか、疑問に思う方もいるだろう。通訳候補者? 愛知県? それともこれから医療通訳を使う外国人患者? 実は現在稼働している「あいち医療通訳システム」は、国の緊急雇用対策事業費を使っているのだ。つまり「医療通訳という新しい雇用を生み出すための一連の取り組み」という名目でプログラムが運用されているわけだ。

 しかし継続的にプログラムを稼働させるためには「誰か」がこの医療通訳のコストを負担せざるを得ない。「あいち医療通訳プログラム」ではこの「誰か」に、自治体、医療機関、そして外国人患者の3者を想定している。つまり県と市区町村といった自治体が事務や育成に関するコストを、そして医療機関と外国人患者が医療通訳への報酬を共同で負担するというシナリオだ。乱暴にまとめるならば、「旗振り役である自治体がシステムメンテナンスのコストを払いますから、医療通訳への報酬は医療機関が患者とうまく折半して負担してください」という仕組みを想定しているのだ。

 日本では通訳のコストというと、受益者負担が一般的な考えではないだろうか? 「外国人患者も自分のために医療通訳を雇うのが当然」というのが一般の方の大多数の意見であろうと考えられる。

 世界でもビジネス通訳では日本と同じく受益者負担が原則だ。しかし行政・司法・医療といった分野での通訳、いわゆる「コミュニティ通訳」となると、その原則が変わってくる。つまりコミュニティ通訳を提供することによって、受益者だけでなく、最終的にはコミュニティそのものが利益を受けると考え、その費用をコミュニティが負担するという選択をする国や地域が多いのだ。

 言葉の壁や文化の壁があるためか、愛知県の外国人患者からは「日本の医療は質が低い」「日本の医師のレベルは低い」という声も数多く聞かれる。こういった偏見を放置してそこに住む外国人を「使い捨ての労働者」として扱うことが、将来どんな「コスト」をそのコミュニティに負わせることになるのだろう? 東日本大震災をきっかけに、日本におけるコミュニティの包容力に世界が注目するようになった。医療通訳のコストを誰がどのように負担するか。愛知県だけでなく、日本の姿勢が問われている。



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