2回目は、松岡先生が日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の新楽直樹代表を招いての特別対談企画の後半です。 映像翻訳という枠組みを超えて文化や芸術、さらには世界における日本の存在についてなど、幅広く話が及びました。
日本のアロマが漂う英語で日本文化を世界に届けたい
新楽直樹(以下・新楽) これまでの日本では、誰が言ったわけでもないのに、「翻訳=英語を日本語にするもの」だと決めてかかる人が多く、日英翻訳というところになかなか発想が至りませんでした。もったいないですよね。日本には世界に通用する素晴らしい文化や技術がたくさんあるのに、それを世界にアピールする機会を自ら排除してきたわけです。でも、これからは英語での情報発信をやっていかないと、日本は世界から取り残されてしまう。そして、その優れた日本文化を世界に発信する役割の一端を担うのが映像翻訳者だと私は思っています。
松岡昇(以下・松岡) 私もこれからますます日英翻訳の可能性は広がっていくと思います。実は先日、たまたまNHKを見ていて知ったのですが、アメリカのトヨタのCMでは日本のキャラクター(※初音ミク:音声合成システム内のバーチャルシンガー)を車に乗せて、キャンペーンをやっているんです。「車」と「アニメ」という2つの文化が合わさって、メッセージが届く。日本の文化を世界に発信することが映像翻訳者のミッションの1つだとすれば、これもまさにそうじゃないでしょうか。
日本人は昔から勤勉だから、外から学び取ることには熱心ですが、自分から発信することをあまりしません。だから、いまだに欧米やアジアの国々から「日本製品は知っているが、日本人はミステリーだ」と思われているわけです。芸術や文化の分野だけでなく、国の機関や企業、あるいは個人にしても、日本人はもっと積極的に情報発信していくべきだと思います。
新楽 例えば、日本のアニメーションなどは、上手い具合に世界に伝わったものの1つと言えるでしょうね。でも、あれは私たちが自発的に海外に発信したものじゃない。むしろ海外の人たちの方が見つけて、価値を見出してくれたものなんですよ。だから、ある意味では誤解されている部分もあって、そこがもどかしくもありますよね。
日本映像翻訳アカデミーには映像翻訳の実務を手掛ける部門があるのですが、日英翻訳も今では多く受けています。かなり前の話になりますが、世界遺産である白川郷をテーマにしたVTRに英語字幕をつける仕事を受注したことがありました。当時、日本語の堪能なアメリカ人に翻訳をお願いしたのですが、1つ困ったことが起きたのです。彼女はとてもきれいな英語の原稿を作ってくれたのですが、たった1つ「土間」の概念がわからなかった。これではダメなんです。どんなにキレイな英語に仕上がっていても、間違った情報が伝わってしまいますから。それならば、多少こなれていない英語であっても「土間」が何であるかを知っている人が訳したほうがいいんです。
松岡 そうですね。日本特有の文化遺産である白川郷の情報を伝えるのであれば、若干拙くても日本の「アロマ」が漂うような英訳がいいですよね。例えるなら、英語で説明されている中に“doma floor”なんていう風に日本語が交り合うくらいがちょうどいい。そうじゃなくても、ナレーターが日本人で、日本人っぽい発音で説明していたり、日本人の通訳が解説していたり。そうした日本の「アロマ」が香り立つような訳は理想ですね。翻訳で大事なのは美しい言葉に置き換えることだけじゃない。日本文化や日本人特有の感覚を、その行間にまでにじませて表現できた時に初めて、世界に届けられるのかもしれません。これはもはや、芸術ですよね。
余談ですが、実は20年ほど前にアニメ『シティー・ハンター』に英語字幕をつけるという仕事をしたことがあるんです。主人公の冴羽獠(さえばりょう)の口癖である「もっこり」なんてセリフはどんな英語に訳したらいいのか一晩中悩んだのに、東南アジアで放映される時には全部カットされていた、なんていう苦い思い出があります(笑)。
新楽 20年も前ですか!? まさに日英翻訳のパイオニアですね。そんな風に、これからは日本文化を世界に発信することが当たり前の世の中になっていくとうれしいですね。
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松岡昇
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青山学院大学大学院国際政治経済研究科修了。専門は、国際コミュニケーション、社会言語学。著書に『日本人は英語のここが聞き取れない』(アルク)、『まるごと使える仕事英会話ミニフレーズ』(共著、アルク)など。「1000時間ヒアリングマラソン」のコーチとして活躍するかたわら、英語およびグローバル人材育成セミナーで講師を務めている。

新楽直樹
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)東京校、ロサンゼルス校代表。青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒業後、大手電機メーカーを経て雑誌・書籍の企画・編集会社を創業。1996年、日本映像翻訳アカデミーを設立。2008年にはロサンゼルス校を開校するなど、一貫して「映像翻訳者の教育と就業支援」に取り組んでいる。

- 日英翻訳の可能性はますます広がっていく
- 日本のアロマを行間ににじませた翻訳で文化を世界に発信しよう

「字幕や吹き替え翻訳に興味津々!」「映像翻訳を英語の勉強に役立てたい」という人から、本格的にプロデビューを目指す人まで、通学コースや通信コース、英語レッスン、無料体験セミナーなど、多彩な学習機会を提供。
2008年2月にロサンゼルス支社を設立。活動の場を広げています。
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