監修 日向清人

***ビジネス英語通になるための25話***

第1話

■はじめに
 
 皆さん、こんにちは。これから25回にわたって、本欄を担当させていただきます。どこの馬の骨とも分からない輩に解説されても不安でしょうから、自己紹介から始めましょう。

  筆者は、父がスウェーデン大使を最後に退官した外交官だったおかげで、イギリスなど数カ国で少年時代を送り、幸い英語に不自由を感じたことはありません。ところが縁あって打ち込むようになったビジネス英語というのは、やはり特殊で、自然に身に付くというものではありませんでした。日本人でも、ビジネス単語をきちんと押さえていない人はゲラクと読むべき「下落」をカラクと読んでしまうでしょうし、会社を設立する人を指す発起人やら、会社の憲法に当たる定款が何のことか分からなかったりしますから、ビジネス英語というのも、単に英語ができるだけでは身に付かないということです。

 ビジネス英語は言葉の背後にある仕組みを知り、決まった言い回しを意識的に修得していくのがポイントだと考えますが、この点は、英語圏の人もわれわれ日本人もスタートラインは一緒ですから、臆する必要はありません。近ごろはブームに乗って、ネイティブだというだけで、あるいは企業での英語教室を担当したというだけで、ビジネス英語の本を出される方が増えていますが、そういったものを拝見しますと、おやおやと思う解説やら言い回しがあるものです。同じことは大学の研究室の中だけで書かれたビジネス英語物についても言えます。

■ビジネス英語を学んだ日々

 じゃあ、お前はどうなんだと言われそうですが、われながらバランスよくビジネス英語の勉強をしてきたつもりです。一番最初にみっちりとビジネス英語/日本語を勉強したのは、あさひ法律事務所という国際取引を得意とする法律事務所で翻訳を担当していた時代です。法律事務所だからと言って、一日中契約書や裁判関係の書類を翻訳しているわけではなく、内外の大手企業のレターあるいは内部文書を訳すという仕事がかなりの部分を占めます。そこで、こういった環境を生かして、大手企業のレイアウトはこうか、アメリカの大企業はこういう場面ではこういう言い方をするのかと、個別企業レベルで使う英語を研究しました。

 次に、プルデンシャル証券というアメリカの大手証券会社に勤めたときは、東京支店全体の翻訳業務の仕事を任されたので、幅広く勉強できました。通常、外資系の証券ですと、株式部で採用された翻訳者は来る日も来る日も銘柄レポートに追われます。業績と見通しを分析して、この銘柄(つまり株式)は Buy だ、 Sell だ、あるいは Hold(保有し続けよ)と、アナリストの結論を投資家に伝えるレポートです。幸い、プルデンシャル証券では、株式関連はもとより米経済見通しといった「経済英語」の知識が必要な翻訳も手がけていましたので、証券関連の英語に加え、経済全体を論ずるときに使う英語を勉強することができました。

 このとき経済用語や証券用語を早く会得するために取った方法は、同一の事柄を取り上げている英文と和文の記事を比較対照する方法です。「米GDP 4%成長」という記事が日本の新聞に出たら、同じことを伝える英文記事と対照しながら、日本語の「実質GDP伸び率」(名目のGDP伸び率から物価上昇分を差し引いた成長率)は英語では real GDP growth と言うのかと確認し、(ここからが最大のポイントですが)GDP growth と組み合わせて使う動詞は accelerate(加速する)または decelerate(減速する)なんだと知識を確かなものにしていきます。

 このようにひたすらビジネス関連の知識の修得とスタンダードな言い回しの確認に精力を費やしてきただけで、英語の大家でもなく、「ああせい、こうせい」と皆さんに指南する筋合いではありません。ビジネス英語の世界での観察記録をそのままお伝えする程度ですので、気楽にお付き合いください。自分なりのイメージとしては、教養のためにビジネス英語を知っておこうという方を読者として想定しています。

 さて次回ですが、ビジネスと皆さんとの接点という場合、株式会社などの会社が一番身近でしょうから、会社、さらには株式会社を英語でどう言うかを取り上げます。その後、株式会社については、日本の大手企業名の英文表記に見られる「なぞのコンマ」を見ていきましょう。


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