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***ビジネス時事コラム***
第8話 equity の意味
『TIME』の2002年8月2日号で、What Bubble? (pp. 38-40) という見出しの下、米国の住宅ブームが取り上げられていました。それによると、3月末までの1年間では住宅のリフォームに投じられた資金総額が1070億ドルだったのに、6月末までの
1 年間では1140億ドルへと増えているとし、その原資として株式の売却資金を挙げてから、But most was borrowed against
homeowners' record $6.7 trillion of equity.と説明しています。この equity というのは持家の価格から負債額を差引いた純資産額のことで、これが
6.7兆ドルという記録的水準になっており、そのおかげでこの部分を新たに担保として差し入れて借り入れを増やし、その資金でリフォームをしているというわけです。
そもそもこうしたことが可能なのは米国では消費者金融商品のひとつにホームエクィティー・ローンというものがあるからです。100万ドルの資産価値がある持家をローンの担保にしている場合に住宅ローン残高が40万ドルであれば、60万ドルがホームエクィティー(資産から負債を引いた純資産相当額)であり、このホームエクィティーを担保にしてさらに借り入れができるというものです。この場合、持ち家の資産価格が上昇すれば、エクィティーの部分の価値も増大しますから、それにつれて借り入れ限度額も拡大されるのがミソです。
ところで、ここでいう equity ですが、皆さんの手許の辞書で引いてみてください。上で説明したような保有資産中の純資産額、つまりは資産の価値のうち担保による制約を受けておらず自由に処分できる自前の部分という意味が出ている辞書はまずないはずです。ちなみに株式は普通
stock または share と言いますが、正式には equity securities であり、equity つまり企業の資産から負債を差引いた純資産部分に対する請求権を表す証券ということになります。
いずれにしろ、なぜ自前のもの、または、純資産を指して、equity と言うのでしょうか。わたしが昔、高名な弁護士から伺ったところではこういうことでした。昔、英国には判例法の体系であるコモン・ローを適用する普通法裁判所と、それと平行して、衡平法(equity)を適用する衡平法裁判所というものがあり、コモン・ローの形式的適用の結果生じる不都合を是正する役目を担っていたのだそうです(いまは司法裁判所ということで一本化されています)。そしてある時期までは、コモン・ロー上は100万の借金を払えなかった場合、担保として差し入れていた1000万の価値の物件が債権者に取り上げられてしまうという不条理がまかりとおっていました。ところが、衡平法裁判所が1000万から負債の100万を差引いた残額900万は債務者に返さねばならないという名判決を下しました。以来エクィティーつまり純資産という概念が定着したのだそうです。
先に引き合いに出した株式も、考えてみれば、その株式を発行した企業に対して利益配当を請求でき、また、解散した場合は残余財産を分配せよと要求できる権利を表してはいますが、それはあくまでも負債を清算した上での話で、ほかに債権者がいれば、株主の権利より債権者の権利の方が優先しますから、結局、株主の権利というのも、会社の資産から負債を差引いた部分との関係でしか効力を有しません。こうした見地から、この純資産部分
net worth は、借入資本 debt capital との対比で、自己資本/株主資本 equity capital とも言われるのです。
金額としては同じなのに呼び方が違うというのもわずらわしいことですが、企業が運用している資金の全体を意味する「資産」と、いずれ返さねばならない資金という意味の「負債」との兼ね合いで自前の持分がいくらあるのかを論じるときは純資産の問題として論じられますので、資本を出しているのが債権者なのかオーナーなのかという見地からの分類である株主資本は顔を出しません。したがって、近ごろ新聞でよく目にする債務超過(普通、資産マイナス負債で純資産部分が残るのに、負債の額が資産を上回っており、それどころではない状態)は、英語では
negative equity capital とは言わず、negative net worth と言います。
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