監修 松澤喜好


第71話:英語の行く(go)とフランス語の行く(aller)が持つ
特別な不規則変化


「行く」のイメージを持つ語根“ire

松澤:今回は「語源ランキングトップ50」 で第26位にある“ire”(行く)です。“ire”は特別な不規則変化を持っています。活用形を書くと、eo ii/ivi itum(1人称単数現在、完了形、過去分詞形)となります。

学生:ものすごくつづりが変化していますね。

松澤:「行く」という動詞は、多くの言語で特別な不規則変化を持っています。英語の go(行く)の不規則変化はどうでしたか。

学生:go went gone です。過去形のつづりが g ではなく、w になるのが不思議ですね。

松澤:「行く」という動詞は、英語だけでなく、フランス語でも非常に不規則に変化します。フランス語を学習すると、ここでつまずく場合が多いのですが、「行く」という動詞が特別なんだと覚えておけば気が楽ですよ。以下に、フランス語の「行く(aller)」の現在形と単純未来形の変化形を示します。フランス語を知らないと、あまり見ることがないと思いますので、参考にしてください。これに比べれば、英語の gowent gone の変化はどうってことないですよね。

現在形:
1人称単数 Je vais I go)  1人称複数 Nous allons We go
2人称単数 Tu vas You go)  2人称複数 Vous allez You go あなたがた)
3人称単数 Il va He/She goes)  3人称複数 Ils vont They go

単純未来(未来形はラテン語の“ire”が強く影響しています):
1人称単数未来 J'irai I will go)  1人称複数未来 Nous ironsWe will go
2人称単数未来 Tu iras You will go)  2人称複数未来 Vous irezYou will go
3人称単数未来 Il ira He/She will go)  3人称複数未来 Ils iront They will go

 ラテン語の“ire”(行く)は多くの合成語をもっていたのですが、フランス語と英語が独自の「行く」という動詞をもっていたので、英語とフランス語に派生した動詞の数は少ししかありません。下の表をご覧ください。

接頭辞 ラテン語 フランス語 英語 解説
. ire”(行く) aller(行く)、irai(1人称単純未来形) go(行く) 英語の「行く」はゲルマン語の go から派生しています。ラテン語の “ire” からではありません。
ab-(off [離して]) abire(立ち去る) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
ad-(…の方向に、前に) adire(…に近づいて行く) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
ambi-(周囲に、両側に) ambire(囲む) ambiance(人を取り巻く環境、雰囲気) ambiance/ambience(人を取り巻く環境、雰囲気) 「周りを行く」というイメージから「人を取り巻く環境」という意味になっています。
ante-(先に) anteire(先に行く) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
circu-(周りに) circuire/circumire(周りを行く) circuit(周囲、1周) circuit(回路、巡回) 「ぐるっと回って行く」というイメージから「回路」「巡回」という意味になっています。電子回路でも、電気がぐるっと回って戻ってきます。
co-(一緒に) coire(一緒に行く) coit(性交) coition(性交) 「来て一緒になる」というイメージです。
ex-(外に) exire(出て行く) exit(出口)というフランス語はありません。フランス語で「出口」は sortie といいます。 exit(出口、出て行く) 「外に行く」というイメージです。
in-(うち)に、強意) inire(入る、始める) initier(初歩を教える、入会を許す) initiate(始める、開始する) 「中に入って行く」というイメージです。ラテン語の initium(入ること、開始)には王位に就いたり、議会に入ったりして、治世や会議を始めるという意味があります。
inter-(間に、中に向かって) interire(間に入る、滅びる) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
intro-(内側に) introire(中に入る) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
ob-(…へ、…の前に) obire(出迎える、逆らって行く) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
per-(完全に) perire(抜けて行く、滅びる) perir(死ぬ、枯れる、滅びる) perish(滅ぶ) 「完全に行く」というイメージです。完全に行ってしまって、いなくなることです。
prae-=pre-(あらかじめ、前に) praeire(先に行く) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
praeter-=preter(過去の) praeterire(過ぎて行く、通過する) preterit(過去形) preterit/preterite(動詞の過去形、過去自制の) 「過去に行った」が元のイメージです。英語では「英文法の過去形」の意味で使われます。
pro-(外へ、前の) prodire(前進する) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
re-(再び) redire(帰ってくる、戻って行く) reiterer(…を繰り返す) reiterate(反復する、再び繰り返す) 「再び行く」というイメージから「繰り返す」という意味になりました。
sed-(離れて) seditio(離れて行くこと、暴動) sedition(反乱、暴動) sedition(暴動、騒乱) 「離れて行く」というイメージから、「逆らう」「暴動する」という意味になりました。
sub- subire(下に行く、下から行く) 関連するフランス語はありません。 関連する英語はありません。 フランス語と英語には使われていません。
trans-(横切って) transire(横切って行く) transit(免税通過、トランジット) transit(通過する、乗り継ぎ) 「横切って行く」というイメージです。飛行機の乗り継ぎでは transit が使われます。
ven-(売る) venire(売りに行く) vendre(販売する) vend(販売する)
vend の語源は、ven(売る)+dare(与える)です。
ラテン語の venire(売りに行く)と venire(来る)は異なる単語なので、注意が必要です。

松澤:日本語では、「行く」という動詞は特別に重要なものではありませんが、ラテン語系の言語では、非常に基本的な機能を持った重要な動詞です。“ire”が英語の語根として使われる場合は、-it や -ir と2文字で表されるので、見逃しやすいですから注意してください。

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