監修 松澤喜好


第100話:これまでのまとめ


語源はイメージ!

松澤:第100話まできましたので、これまでのコラムをまとめたいと思います。私は30年以上も前から語源を活用して英語を学んでいます。10年ほど前からは、パソコンに英単語を入力し始めました。パソコンにデータを入れておくと英単語の整理と編集が簡単にできるからです。数年かけて約1万語の英単語を入力しました。私が運営するホームページに53個の語源とその派生語2600単語を公開したところ、大きな反響がありました。これがきっかけで、このコラムを書く機会に恵まれました。

「語源って本当に役に立つの?」

という質問をよく受けますが、「500個の語源を学ぶだけで1万個の英単語が覚えられるよ」と具体的に答えるようにしています。数字を示すと説得力があるので、多くの人は納得してくれます。

「英単語はいくつ知っていればいいの?」

という質問もよく受けますが、私は2万語と答えています。

学生:2万語を習得したいと思っていますが、英語の初心者にはハードルが高いと思います。辞書にある語源の記述は記号だらけだし、最初はラテン語にも抵抗があります。語源は「接頭辞+語根+接尾辞」を使った「難しい単語を覚えるためのツール」というイメージも強いです。

松澤:第99話まで学んで、どうなりましたか。

学生:ようやく語源になじんできました。以前は辞書を引いて英単語を調べることがとても苦痛だったのに、今では辞書を引くのが楽しみです。語源に使われているラテン語にも慣れてきて、何となくわかるようになりました。辞書にある語源の記述に慣れると、その単語がもともともっていた本質的な意味を把握できるようになってきました。語源学習の本質は「英単語の元のイメージ(語根)をつかむこと」にあることもよくわかりました。語源は英単語が記憶できるだけでなく、単語のイメージをつかむ強力な手段だとわかったのが大きな収穫です。

松澤:語源はまだまだ英語の専門家だけのものと誤解されていますね。語源コラムが進むにつれて、ラテン語のやや専門的な内容を折り込みながら説明したのですが、それは語源の本質を理解してほしいと考えたからです。

語源コラムの第1話から第99話の構成は、以下の3つに分かれています。

  1. 入門編
  2. 語源の背景
  3. ラテン語・フランス語との対比

この語源コラムは、「語源辞典」と一緒に活用すると効果が倍増します。語源の出ている辞書も活用してみてください。

1 入門編

 第1話から第36話は入門編です。意味の異なる2つの英単語を取り上げて、「実は語源が同じなのですよ」と解説するストーリーで、語源をわかりやすく紹介しています。

 2000年10月に約1万個の単語を収録した「語源辞典」を公開しました。これは私が数年間かけて少しずつ入力してきたデータを元にしています。おかげで、紙の辞書では不可能な、検索可能な辞典が実現できました。私自身もときどき利用しています。

 個人で使うためにデータを入力していたので、語源の詳しい説明や接頭辞の説明などはあまり書かれていません。「もっと説明を加えてください」という要望がたくさん寄せられていますが、作業に時間がかかるので、すぐにはできないと思います。その代わり、派生単語の多い語源の上位50個をランキングにして、このコラムで詳しく説明しました。データをパソコンに蓄積したおかげで簡単にランキングを作ることができました。ランキング上位の語源から学習すると、少ない努力でたくさんの英単語が覚えられますよ。コラムを読んだあとに、語源の説明が載っている辞書を使って、足りない情報を補ってほしい、というのが私の希望です。自分で調べると身につくのも早いです。

 「語源辞典」とこのコラムは、予想以上にアクセス数が高いそうです。「語源の話は人気が出ない」といわれていたので、とてもうれしく思います。インターネットのおかげで、多くの人に語源の大切さを知ってもらう機会を得ることができたのが何よりもうれしいです。

2 語源の背景

 第37話から第58話までは語源の背景について触れています。2万語の英単語のうちで、ラテン語系の単語が8割近くを占めています。英語はゲルマン語派に分類されていますが、2万語の英単語のうちゲルマン語が占める割合は2割程度です。ゲルマン語を語源とする単語は OE(Old English)と辞書に表記されています。この OE の意味を本当に理解するためには、英語の歴史を知らなければなりません。このために第53話第54話に英語の歴史を紹介しました。

 日常会話やビジネスライティングでは、ゲルマン語系の語彙で構文を作り、ラテン語系の語彙を主語や目的語に使うと、英語らしい英語になります。英語を完全に習得するためには、英語の構文を理解することと単語を覚えることの両方が必要です。

 100話を通して一番伝えたかったことは「単語を覚えることと英語の構文を理解すること」です。これらが英語を完全に習得するための近道になります。第94話と第95話で再びゲルマン語を語源とする基本動詞の使い方を取り上げ、英語の構文について示しました。

3 ラテン語・フランス語との対比

 第59話から第99話までは、ラテン語とフランス語と英語を対比させて、英語の単語の成り立ちを理解できるようにしました。かなり専門的な内容になるので、読者がついてきれくれるかどうか心配でしたが、どうやら好評のようです。学習が進むにつれて読者の理解度が増してきたのだと思います。

 ラテン語とフランス語を対比して書くことにより、語源に対して持っている抵抗感をなくすことができると考えています。「語源は英語を専門的に勉強している特殊な人だけが調べるもの」という先入観がありますからね。

 欧米では語源を使って英語を学ぶのが一般的で、必須事項だと考えられています。英米人向けに書かれたボキャビル本には必ず語源が出てきます。英米人が語源の助けを借りて語彙を増やす方法は、日本人が漢字の学習をすることによく似ています。漢字は、「偏(へん)・旁(つくり)・冠(かんむり)」で整理して覚えると効率的ですよね。英語の語源もこれと同じです。

 ラテン語とフランス語を対比して書いたのは、2500年前のラテン語の意味が、英語でもそのまま使われていることを、多くの例を使って説明するためです。2500年前の単語がそのままフランス語や英語で使われているという事実は感動ものですよね。私にはロマンすら感じられます。語源を見ていると、2500年前の人々の生活が目の前に浮かんでくるようです。

 第59話以降の執筆は大変でした。居間に辞書をたくさん並べて執筆しました。何しろ4カ国語です。使った辞書は、ラテン語=英語辞典、英英辞典、英和辞典、仏和辞典、仏英辞典など、常に6、7冊の辞書を広げていました。F 編集長はイタリア語が少しできるので、サービスでイタリア語も加えようと思ったこともありましたが、イタリア語はほとんどラテン語と同じになってしまうのでやめておきました。

 第59話以降のコラムは、フランス語の学習者にも好評のようです。英語をきちんと学習したあとにフランス語を学ぶと、英語にかけた10分の1以下の労力で学ぶことができるというのが私の持論です。このことは第59話以降のラテン語とフランス語と英語を対比させた表を見れば納得してもらえると思います。10分の1の労力で習得できるのならば、やらないと損だと思いませんか。第66話の「英語とフランス語の共通点」でも、英語とフランス語はとても似ていることを説明しています。

 語源ランキングTOP50まで公開しています。コラムでもこの50個の語源について説明をしています。詳しくは、TOP50の表の右端にある「コラム」の欄をご覧ください。

これが英語だ、語源はイメージだ!

 長くコラムを続けてきましたが、英単語の裏にある語源のイメージをつかめるようになりましたか。「語源辞典の使い方」にもあるように、語源の知識を元に2万語の語彙を身につけて、英語を完全に習得してください。英語の全体像がつかめるようになります。

 語源というとラテン語が大半を占めますが、数は少ないけれども OE に分類されているゲルマン語を語源とする英単語を使いこなすと、英語が早く習得できます。2万語のうちで OE を語源とする英単語は2割以下ですが、これを使いこなすことによって日常会話やビジネスライティングに役立ちます。バランスよく学習することが大切です。

 ラテン語は動詞を中心に紹介しました。名詞、形容詞、副詞などの単語にも派生していますが、これらをすべて説明するとラテン語の講義になってしまうので、思い切って省略しました。名詞、形容詞、副詞などは、「語源辞典」と辞書を活用して習得してください。

英語の未来

西暦2100年

 語源から現在の英語を見てきましたが、さらに進んで2100年の未来を大胆に予測してみたいと思います。2100年にはほとんどの言語がパソコンで相互翻訳が可能になっていると考えられます。携帯電話にも同時通訳の機能がついて、目の前の外国人と携帯電話で会話できるようになるでしょう。技術の進歩により、英語を学校教育でテストのために勉強させられる必要がなくなっているといいですね。

 2100年には、人間は「物理的な満足」「肉体的な満足」「精神的な満足」のをいろいろと経験して、かなりの人が本物志向になっていると考えられます。2100年の日本人の人口は6000万人から7000万人の間だと予測されています。現在は1億2000万人強なので約半分の人口になります。日本人が上手に国を運営していれば、ゆったりと生活のできる、混雑の解消された豊かな国になっているはずです。

 マイクロチップを使って外国人と会話することに満足できない本物志向の人は、自分の肉声で外国人と会話をしたいですよね。英語教育も現在とはまったく違っているでしょう。半年ぐらいの訓練で英語は完全に習得できるように教育プログラムが完成しています。2100年には、人間の脳の記憶細胞とコンピュータのインターフェイスが確立されて、単語を覚えなくても脳に記憶することができるようになっているという人もいます。自分の口を動かす「体育会系」の訓練だけで言語の習得ができてしまいます。

 2100年には、言語の標準化がどこまで進むでしょうか。20世紀はラジオ、テレビの出現により、どの国も方言が減り、自国の中で、お互いにコミュニケーションができるようになりました。21世紀後半には、エスペラント語がめざしたような世界統一言語ができているのでしょうか。

2100年の漢字圏

 楽観的に考えると、地球上には2つの標準語の言語圏ができている可能性があります。アルファベット圏と漢字圏の2つです。これは私の希望ですが、漢字圏の国々が一緒になって、漢字の標準化ができていることを望みます。

 Windows2000UNICODE は文字を16Bitで扱えるようにして、漢字のやり取りが世界中でできるようになりました。UNICODE のフォントの体系は欧米人が中心に作ったので、似たような漢字を無理やり一緒にしたようです。中国語と日本語で微妙に形が違う漢字を一緒に扱っています。このために、UNICODE はアジア圏では使われず、日本では JIS コード、台湾では BIG5 というように、各国でばらばらの漢字コード体系が使われています。

 マレーシアとインドネシアの言葉の統一が政府レベルで合意され、標準語化が進められています。長い年月をかけて教育・普及活動をしています。同じように、漢字の意味を統一し、パソコンの E メールで中国、日本、台湾、シンガポール、韓国、アジアの国々の人々がコミュニケーションできることを願います。インターネットでつながった強力な漢字圏ができあがれば、英語に対抗できると思います。

 アジア人同士では言葉が通じないために、仕方なく英語でコミュニケーションしている現状は不自然だと思います。漢字の標準化が国家間で推進されて、中国語・日本語・韓国語で書かれたものはそれぞれの国の人が意味を理解できるようになっていてほしいと思います。コンピュータによって、知識がデータベース化するにつれて、必要に迫られて標準化されていくだろうという希望的観測を持っています。標準化の活動を推進するのは、民間の NPO でしょうか。各国の若い人々に期待したいと思います。

2100年のアルファベット圏

 2100年になっても英語が圧倒的に支配していると思います。アルファベット圏の知的データベースの90パーセント以上が英語でしょう。ただし、2100年の英語は現在の英語とは少し異なっていると思われます。英米のベストセラー作家は、シンプル・イングリッシュを使い始めています。簡単な単語と短い文章で、深い感情を表現しようとしています。シドニー・シェルダンなどは昔からシンプル・イングリッシュを意識して書いているようです。2100年に向かってシンプル・イングリッシュがますます利用されるようになるでしょう。

 また、コンピュータによる翻訳が進むにつれて、英語の誤訳がないように、各国の圧力で1つの単語には1つの意味が使われるように標準化が進むと思われます。英語はよりロジカルでシンプルになるはずです。同時に英語の発音とつづりの間にあるギャップをなくしてほしいのですが。これは無理な相談でしょうね。

2100年の国際的な大学

 2100年の大学ではどんな言語が使われているのでしょうか。もしアルファベットと漢字の2つの標準言語ができているとすると、大学の授業や文章はこの2カ国語が使われているでしょう。バイリンガルの世界です。アルファベット圏から来た学生は、アルファベット中心の文章に漢字の単語を混ぜて使っています。漢字圏からきた学生は漢字中心の文章の中にアルファベットの単語を混ぜて使っているでしょう。お互いの文化の優れたものやアイデアはその元になる言語の単語がそのまま使われているでしょう。学生はバイリンガルなので、どのような漢字とアルファベットの単語の組み合わせでも理解できます。そうなると、自国の文化を大切にしながらも表現力は向上していることでしょう。

最後に私の趣味の車の話題で終わりです

 トヨタは2001年6月にプログレの後継機である Brevis を発売しました。4550mm という brevis(短い)全長にいろいろ詰まっているので、こう名づけたのでしょう。私は BMW の3シリーズとメルセデスの C クラスと Brevis を比べていますが、タダでもらえると言われたら迷わず Brevis を選びます。

 Brevis の語源について考えてみましょう。トヨタは車の名前にラテン語をよく使います。Brevis の語源は、ラテン語の brevis(短い)です。ちなみに、ラテン語の「長い」は longus です。第24話にも車の名前の語源を紹介しましたので参照してください。

私のホームページ「英語・発音・語彙」もご利用ください。
http://www.scn-net.ne.jp/~language
松澤喜好 2001年6月

 もう1度、第1話から読み直すことをお勧めします。英単語にもっと親しみが湧いて、英単語が楽に習得できるようになりますよ。

語源コラムを学んで

学生: 「語源は難しい!」、そう思っていたときにこのコラムがスタートしました。9カ月間にわたって松澤先生に語源を教えてもらったおかげで、今では「語源はやさしい!」と胸を張って言えるようになりました。一番大きな変化は英語の理解力の向上です。英語のリスニングでは、海外ドラマが楽に聞けるようになってきました。まだ100パーセント聞き取ることはできませんが、英語でドラマを楽しむことができます。ペーパーバックも楽に読めるようになってきました。語源は英単語を覚えるための便利な手段だと思っていましたが、英単語のもともとのイメージをつかむための強力な武器だとわかったのが大きな収穫です。また、コラムの途中からフランス語の勉強を始めました。英語で苦労した経験がフランス語に生かされています。コラムを通じて、2000語レベルを超えれば英語とフランス語はほとんど同じだとわかったので、基本単語を中心に学んでいます。英語も音から入って、2000語レベルまで語彙が増えた段階で語源を学ぶようにすれば、どんなに楽だったろうと思います。フランス語は音から学んで、2000語レベルまで到達したら、語源を使って語彙を増やそうと計画しています。語源を学ぶと、英語の発想がわかり、諸外国語の理解が深まってきます。これからも語源を学んでいきたいと思いますので、語源サイトの充実に期待しています。最後になりましたが、100話到達おめでとうございます!

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