2016.06.09 Thu

第6回 荻野雅由さん 「生徒が主役の授業を追い求めて」

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PROFILE

荻野雅由さん。群馬県出身。公立高校の英語教員を経て、1999年にニュージーランドに移住し、高校で日本語を教える。2011年よりクライストチャーチの大学で日本語の指導と研究を行う。

 2014年に『恋するフォーチュンクッキー』を、15年には『ようかい体操第一』をニュージーランド(以下、NZ)の高校生たちが楽しそうに踊る姿が動画サイトに公開された。

 この企画の仕掛け人となった荻野雅由(まさよし)さんとNZとの縁は1994年にさかのぼる。群馬県の高校で英語を教えていた時、若手教師に海外経験を積ませる派遣プログラムに選抜され、NZのハミルトン女子高校で日本語を教えることになったのだ。

 「日本での5年間の教師経験がまったく通用しなくてショックを受けました。この授業は面白くないと判断した生徒たちをコントロールするのが大変だったんです。このままではいけないと、評判の良い先生の授業を見学させてもらい、そこで、一方的に教えるのではなく、生徒が自発的に考えて取り組むように導く教え方に出合ったのです。教師だからリスペクトされるのではなく、リスペクトされる魅力的な授業を行うのがこの国の教師の役目なんですね」。

 新しい指導法に魅力を感じた荻野さんは、ハミルトンの女子高で教えながら、地元のワイカト大学大学院で日本語教育についての調査を始めた。貴重な経験を得て、20カ月後に帰国。群馬の高校に戻った。

 「生徒が主役となる授業をと意気込んでいたのですが、受験を意識すると、派遣前と同じく一方的に教え込むスタイルに戻すしかなくて……。教育とは本来どうあるべきものなのか、考え続けました。帰国して3年になる時、学校を辞め、NZに戻って日本語教育の研究がしたいと妻に相談したんです」。

 99年3月、荻野さんは大学院の博士課程に進学するために家族と共にハミルトンに戻った。以前派遣されていた女子高に日本語教員の空きがあり、仕事も見つかった。ハミルトンの高校で11年間教え、現在はクライストチャーチにあるカンタベリー大学で准教授として日本語を教え、研究する日々を送っている。

日本語学習者たちをつなぐ試み

 90年代、NZでは日本語が中学・高校の外国語学習の学習者数でトップの座を占めていた。しかし、近年は中国語などに押され、減少傾向にある。日本語学習者を再び増加させるために何ができるのかは、荻野さんの大きな課題となっている。

 「これからの外国語教育では『つながる』ことが大切だという話をある講演で聞いたんです。NZでは日本語を学んでいる高校同士の横の交流、高校と大学の縦の接点がないことに気付き、大学の講堂にこの地域で日本語を学んでいる高校生を集める『日本語1日集中研修』を企画したんです」。

 参加者の一体感を高める仕掛けの一つとしてAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』を各高校で踊ったものと参加者全員で踊ったものを撮影し、その動画をインターネットで公開しようと呼び掛けた。

 「どんな反応があるのか不安でしたが、ユニークな作品が続々と送られてきました。研修の最後に参加した270人全員で踊った時は、楽しそうな表情が大講堂いっぱいに広がっていきました。NZにはラグビー代表チームが試合前に踊ることで有名な『ハカ※ 』という文化があるので、皆で踊るのはなじみやすかったのかもしれませんね」。

 楽しく踊ったダンスはみんなの心を一つにつなげた。日本語を学ぶ楽しさを伝える鬨と きの声は、この南の島国に広がっていくだろう。

※NZの先住民、マオリ族の伝統的な踊り。


■DATA ニュージーランド
日本語学習者数30,041人
日本語教育機関281機関
日本人日本語教師数99人


■日本語学習者内訳
初等9,048人
高等1,568人
中等19,413人
学校教育以外12人
※国際交流基金2012年度日本語教育機関調査結果より

取材・文:村上 充  

『ようかい体操第一』を踊る高校生たち。動画閲覧は、インターネットで「ようかい体操 NZ」 「恋するフォーチュンクッキー NZ」と検索を









☆本記事は、語学学習や異文化情報が満載のクラブアルク会員誌『マガジンアルク』にも掲載されています。

 
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