2017.01.05 Thu

第10回 石川苑子さん 「パラグアイのトランキーラで愛すべき人々」

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PROFILE

石川苑子さん。隊員としてパラグアイで2年間日本語を教える。帰国後はJICA横浜国際センターで中南米の日系人への研修業務に携わっている。



「勇気、体力、時間、少しのお金、4つの美しい犠牲が国際協力には必要なのです」。

大学時代、タイの孤児院を支援するサークルの顧問から石川苑子さんが聞かされた言葉だ。ラオス出身で難民経験を持つ彼の言葉は印象に残った。
大学卒業後、いったんIT企業に就職したが、入社3年目からJICAの青年海外協力隊に申し込み、3回目の応募で合格した。

「会社を辞める勇気、健康であるための体力、2年間という時間、少しのお金が本当に必要でしたね」。

2012年、冬が始まる6月末、石川さんは南米パラグアイの首都アスンシオンに到着した。任務は「パラグアイ・日本 人造りセンター」での日本語教育を運営しながら、自らも指導するものだった。

「赴任直後にペアを組んで働く予定だったパラグアイ人教師がセンターを辞めてしまっていたんです。頼りにしていたので本当にショックでした。同僚となる教師は3人で、日本人はいませんが、教えてきたキャリアは私より長いのでまとめ役として気を使いました。自分は忍耐強い性格だと思ってましたが、最初の半年は職場でもホームステイ先でもつらいことが多く、部屋に帰ってよく泣いていました。パラグアイの人は日本語で『のんびりしようよ』という意味の『トランキーラ』という言葉をよく使うのですが、時間や約束が守られず、決めるべきことが後回しにされるのがストレスでしたね」。

おおらかで優しい人々

日本語を学びに集まってくるのは高校生や大学生が多く、男女比は半々。アニメ、漫画で日本に興味を持った人たちだった。

「明るく、開放的なラテン気質の学生が多いのではと思ってましたが、意外とシャイな人が多かったです。授業中もスペイン語でばかり話そうとするので、よくパンパンと手を叩きながら、『日本語で話しましょう!』と伝えてました。ある日、今日も注意しなければと思った時、パンパン! って手を叩く音がして、ノエリアさんという女子高生が周りに注意してくれてたんです」。

遅刻してものんびりと教室に入ってきたり、宿題を忘れても堂々としていたりとトランキーラな面はあっても、彼らのおおらかで、優しい面も見えてきた。学生から相談を受けたり、言葉の壁にくじけそうな学生への補講を積極的に行ったりした。

「留学するわけでも、仕事に役立つわけでもないのに、『日本が好きだから』とやってきてくれるんです」。

学生の家に招待されたり、新しいホストファミリーとの会話を楽しんだり、気が付けば自分の居場所ができていた。
最後の授業では、学生たちがお別れ会を開いてくれ、旅立ちの日にも空港に見送りに来てくれた。ノエリアさんが遅れてしまったが、空港職員のはからいで搭乗口の中に入れてもらえて会うことができた。抱き合い、涙が止まらなくなった。

帰国後はパラグアイでの経験やスペイン語力を生かし、中南米の日系人を日本の企業や大学の研修先に紹介する仕事に就いた。

「16年の夏、1週間でしたが、パラグアイのみんなに会いに出掛けてきました。また戻って、日本語を教えたくなりました。勇気を出して、国際協力の世界に飛び込んだことに後悔はありません。行かなければ絶対出会えなかった人たちに、出会えたんですから」。

取材・文◆村上 充

DATA
※国際交流基金2012年度日本語教育機関調査結果より
パラグアイ
日本語学習者数2,881人
日本語教育機関15機関
日本語教師数70人

最後のクラスで学生たちに囲まれて。後列右から2人目が石川さんで、前列右端がノエリアさん。









☆本記事は、語学学習や異文化情報が満載のクラブアルク会員誌『マガジンアルク』にも掲載されています。

http://www.alc.co.jp/jpn/article/aitoheiwa/img/womanFIX_360x70.jpg
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