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■タイのお正月「ソンクラーン」
皆さんはタイにはお正月が三回あるというのをご存知でしょうか。一回目は一月一日の新年、二回目は陰暦の旧正月(中国正月とも呼んでいます)、三回目は四月十三〜十五日のソンクラーンです。日本では新年のお正月を祝うことをとても大事にしていますが、タイの人にとって本番のお正月というのはこのソンクラーンなのです。新年は単に古い年と新しい年の変わり目でしかありませんし、旧正月は主に中華系のタイ人のためのものでしかありません。
このソンクラーンの時期はタイでは暑季にあたり、一年でもっとも暑い時期です。雨がまったく降らず、かんかん照りの日が続きます。日中の気温はバンコクでは四十度を超す日も珍しくありません。夜になっても空気中の熱は引くことがなく、日本風に言えば「熱帯夜連続○日目」という感じでしょうか。こんな気候の中でお正月を迎えるのですから、日本の冬の落ち着いていて厳かな雰囲気のお正月とはまるっきり正反対で、どこか熱病に冒されたような、バカ騒ぎをしたいような、そんな雰囲気なのです。
このソンクラーン、大掃除をして迎えるわけでもなく(中華系タイ人は大掃除をして旧正月を迎えますが、純血のタイ人が大掃除をしているのをワタシは目にしたことがありません)、おせち料理があるわけでもなく、お年玉があるわけでもありません。それではタイの人はこのお正月に何をするのでしょう。もし敬虔な仏教徒の一人であれば寺院に詣でて寄進をしますが、もっと庶民レベルで楽しむイベントというのが「水掛け」。ソンクラーンは別名「水掛け祭り」とも呼ばれるのです。
■国民半狂乱の「水掛け祭り」
もともとはこのソンクラーン、タイという国が一月一日を新年とする暦を取り入れる前までは、この時期がタイの正式な新年でした。四月十三日は元旦に当たり、寺院に参詣してその年一年の健康と幸福を祈ったものです。その後は、寺院を中心に若い男女が水を掛け合う遊びに興じます。その昔、この水掛け遊びは見知らぬ若い男女が知り合うことのできるまたとない機会でした。今でも地方の農村などではそうなのかもしれません。それがいつの間にか、この猛暑の時期に「水を掛け合う」という行為だけが大げさになり、バンコクやチェンマイといった都市では、老若男女問わず半狂乱状態で水を掛け合うようになってしまったのです。
ソンクラーンの数週間ほど前から街中では水鉄砲が売られ始めます。水鉄砲といっても、ピストル形をしたかわいいものではなく、マシンガン並みの大きさをした水圧も強いものです。もしくは竹のように細長い筒型をしたものを突いて水を飛ばす形のもの。ピックアップトラックの荷台に水を汲んだ大きなかめを乗せて、水鉄砲を武装した人が荷台に乗れるだけ乗り込みます。これで街中を走り回り、手当たり次第に通行人に水を掛けまくるのです。
運転中の車やバイクにも水を掛けることで、視界を失う、またはスリップするという理由で例年交通事故が続出します。また、ディンソーポンと呼ばれる石灰質の白い粉を水に溶いたものを顔や手足にペタッと塗るのですが、これを理由に女性の体にわざと触る痴漢まがいの行為をする人がいます。これらの事故やトラブルを防ぎ、楽しくソンクラーンの水掛けを楽しんでもらおうと、今年は政府が先頭に立ちこのイベントを規制しました。守らない人は罰金、または実刑です。ところが、ソンクラーンを挟む四月十一日から十六日の期間の交通事故による死亡者は五百六十四人。昨年をわずかに上回ってしまいました。政府はこれを反省材料に、「来年はもっと厳しく取り締まる」とのことですが……。タイに伝わる本来の意味での「水掛け」を楽しめるようにはならないものかと、この時期がくるたびに密かに思ってしまうのです。
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