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さて、引っ越しをしたらペットを飼おう(第209話参照)と思ってはいたものの、だらだらと時間が過ぎて、既に3カ月が経過していた。ただ単に忙しかったからというのもあるのだが、それよりも、余計な出費を強いられたため(第205話参照)に家具を一度に買い揃えることができず、収納すべきものが家の各所に無造作に置かれていたからという理由が大きい。「ペットを買うより、まず先に家具を買わないと」ということで、必要な家具を調達して、家の中がほぼ完全に片づいたと思えたのがつい3週間ほど前。我が家の“ペットを飼おう計画”も最終局面に近づいた。
ペットとして飼うのは犬ということで話がまとまっていたのだが、次に問題となったのは「どこから買ってくるか」だった。バンコクでペットを買おうと思ったときに、まず頭に浮かぶのがチャトゥチャック市場(ウィークエンドマーケット)である。ワタシはペットを買おうと決めてから、何回かチャトゥチャック市場に足を運んで、どの犬種にしたらいいか実物を見ることで参考にしていたのだが、相方は「会社の人が、チャトゥチャックでは買わないほうがいいって」と言ってきた。聞くと、会社の中にチェンマイの実家でケンネルを営んでいる人がいて、「チャトゥチャックでは絶対買っちゃダメ」と念を押されたのだという。というのも、「あそこで飼った犬は、健康面でトラブルを抱えている場合がほとんどだから」というのである。
チャトゥチャック市場のペットコーナーには3種類の店舗がある。ひとつはエアコンの入った店で、ケージに入った犬はおもちゃやおやつを与えられて快適に遊んでいる。心なしか、扱われているのも高級犬種が多いようだ。もうひとつはエアコンなしの店。低い囲いのついた台の上に、犬種を問わず子犬が詰め込まれている。犬たちも慣れているのか、他の犬とじゃれたり、眠かったら勝手に寝たりと、いかにもタイっぽい。そして最後は店とは呼べないのだろうが、ペットコーナーの通路ではかなり幅を利かせている、手にバスケットを持ったおばちゃんたちである。洗濯物を入れるようなバスケットに、高級犬種もいれば雑種もありという感じで子犬を5〜6匹入れて、道行く人の興味を惹いている。ずいぶん以前に、ワタシはこのおばちゃんのひとりが、キャンキャン鳴き叫ぶ子犬をバシッと平手で叩いているのを目撃してから、「こういう人からは絶対に買うまい」と心に誓ったものである。
エアコンの店以外は、通路を歩きながらでも気軽に子犬に触れ合うことができる。頭をなでたり、抱きかかえることもできてしまう。だが、知らない人に一日中触られ続けたりしたら犬のほうもストレスを感じるだろう。また、人手が多いときのチャトゥチャック市場はサウナのように暑いので、犬が多少元気がなくとも暑さのせいにすることもできる。そうして家に連れ帰った犬たちが、ケンネルコフだったり、お腹を下す病気だったりというのはよく聞く話で、中には買ってまもなく死んでしまう犬もいるという。
その差が明確に表れるのが犬の値段で、エアコンのある店はない店の数割増しの値段をつけている。バスケットのおばちゃんはほとんどたたき売り状態だ。他のまともなペットショップではどのくらいの値段がするのだろうと思い、トンロー地区にあるペットショップで値段を尋ねたら、1万5千バーツ以下の犬はいなかった。同じ犬種をチャトゥチャックで買うとしたら、おそらく半額以下だろう。買い物をするときは誰しも、まず予算を決めてから買い物をするのが普通だろうから、安い値段がつけられた犬に魅力を感じるのも仕方のないことなのだ。
相方がそんな話を会社でしていたら、事務の女性が、「親戚のところに子犬が生まれたけどほしい?」と聞いてきた。なんでも母親はミニチュア・ピンシャーなのだが、地方の家らしく外で放し飼いをしているので、素性のわからない犬との間に子どもができてしまったらしい。それ以前にワタシと相方は、「飼うなら、ミニチュア・ピンシャーかジャック・ラッセル・テリアがいいねえ」と言って、ネット上でペットを売買するサイトをちょくちょくのぞいていたので、相方は“ミニチュア・ピンシャー”という単語に反応したのだろう。ふたつ返事でもらうことを決めてきてしまった。「なんで実物を見てから決めないの!」と言うワタシに、「写真は見たから大丈夫じゃない」という相方。性別はオスと指定して、はるかスパンブリー県からその子犬が我が家にやってくることになった。
子犬は生後2カ月と聞いていたのだが、初対面のときにワタシはその大きさに驚いた。頭から尻尾のつけ根まで測ると、軽く40センチはあるのだ。顔つきも赤ちゃんらしさはまったくなく、成犬を多少子どもっぽくした感じだ。「母親はミニチュアっていっても、今でこの大きさなら大人になったらすっごい大きくなっちゃうんじゃないの……」。いわゆる集合住宅よりは走り回るスペースはあるものの、それでもそれほど大きくはないタウンハウスである。犬が十分動けるスペースがないとかわいそう、ワタシはまずそれを思った。というのも、タイの公園は犬を連れての散歩は禁止されているし、それ以前にワタシはタイ人が犬を散歩させている光景を目にしたことがない。大型犬を飼うならある程度敷地に余裕がある家で放し飼いをしているのだろうし、そうでなかったら小型犬を選ぶのだろう。この犬が果たしてどこまで大きくなるのか、期待と不安が入り混じった瞬間だった。
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