<「真の英語力」は短期間では身につかない>
よく「子どもは早くことばを覚える」と言われますが、本当にそうなのでしょうか? 意外かもしれませんが、実は、子どもより大人の方が早く覚えるという研究結果が出ています。これは大人と子どもの認知能力の差がその原因なのです。
たとえば、英語で過去のことについて語ることができるようになるためには、子どもの場合、無数の具体例に触れながら試行錯誤を繰り返し、何十時間、何百時間をかけて少しずつ頭の中に体系的な規則を構築する必要があります。
それに対し、大人の場合、「動詞の語尾に-edをつけて過去形をつくる」と説明してしまえば10秒もかからずに理解できます。つまり、子どもよりも大人の方がはるかに早く抽象的な文法規則などを理解できるのです。
◆子どもはじっくり時間をかけて覚える
しかし、その一方で、長い目で見ると、年齢が低いときに学習を始めた人の方が、一定以上の年齢になってから始めた人よりも外国語がうまくなり、よりネイティブ・スピーカーに近い能力を身につけている、という結果もあります。
一見、先述の結果と矛盾しているように思えるかもしれませんが、そうではありません。実は、子どもは試行錯誤しながらじっくりと時間をかけて覚えていくぶん、かえってしっかりと身につけることができるのです。また、早い時期に始めれば、それだけ学習歴が長くなります。同じ20歳の人でも、6歳で始めた人には14年間の、13歳で始めた人には7年間の学習歴があることになり、前者は後者の倍の学習をしているということになります。
◆成果が現れるのは、大人になったとき
次に、身につけるべきことばの能力について考えてみましょう。
たとえば、日本語での会話に何の問題もない日本語のネイティブ・スピーカーが、同じ日本語であるにもかかわらず、現代国語の論説文を読むのに苦労する、ということがあります。
つまり、同じことばでも、人とやり取りする際に使用する具体的な「生活言語」と、学術的な事柄を扱う抽象的な「学習言語」は別物なのです。
そして、新しい国に移住してきた移民の子どもたちが2、3年で「生活言語」をある程度まで身につけるのに対し、「学習言語」を身につけるには7、8年もの期間が必要になるとも言われています。つまり、高度な語学力を身につけるには時間がかかるのです。
逆に、一見効率良く短時間で身についたと思えるものは、実は表層的で本当の意味で身についているわけではない、とも言えます。
これらの研究結果から「学習を継続すること」の大切さが分かります。英語教室に2、3年通ってもお子さんに目に見える進歩がないと心配されている保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、心配は無用です。むしろ、目に見えない真の実力がついている過程なのです。
お子さんが大人になったときに成果が現れるように、長期的な目で見ながら、じっくりと学習を続けさせてあげることが何より大切なのです。
<著者プロフィール>
藤田 保
上智大学言語教育研究センター教授。専門は応用言語学(バイリンガリズム)と外国語教育。アルク キッズ事業アドバイザー。
NPO 小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)理事。著書に『英語教師のためのワークブック』『先生のための英語練習ブック』(共にアルク)。
※アルクでは、「アルク Kiddy CAT英語教室」に通う生徒の保護者向け情報誌 『えいごのじかん』を、お配りしています。本企画はその冊子から、メルマガ読者の皆さんに紹介したい記事を取り上げ、再構成したものです。 |