取材・文 杉谷知子
第3回 柴原智幸先生
profile

上智大学外国語学部英語学科卒業。神田外国語大学専任講師、NHK放送通訳者、日本通訳翻訳学会理事。英バース大学大学院通訳・翻訳コース終了。1998年から2002年までBBC日本語部で放送通訳者として勤務。2011年4月よりNHKラジオ講座「攻略! 英語リスニング」講師。吹き替え用映像翻訳や、アルクの通信講座「通訳トレーニング入門」の通訳模範解答録音にも携わる。
※記事の内容は取材当時(2012年)のものです。

中身のある英語が詰まった教材で世界に踏み出す

文法訳読式の英語学習で基礎固め

「僕の根っこにあるのは中学・高校で学んできた典型的な文法訳読式英語です。でも家庭環境は少しラッキーだったですね」。


というのは、柴原智幸先生の父親が高校の英語教師だったこともあり、小さな頃から英語に触れる機会が多かったから。例えば、料理をする台所では『English Journal(EJ)』の音声が流れていたし、習った英語で話しかければ、相手もしてもらえた。


「車などに乗ると、父に"Did you close the door?"と聞かれるわけです。小さい頃は言われるがままに、ただ"Yes, I did."と答えていたのですが、中学で英語を勉強して、『ああ、このことだったんだ!』と、初めて意味と文法がかみ合ったんですね」。


ある時、大学生になった父親の教え子が遊びに来た。父親が好きだろうと、1960年代を中心にしたアメリカンポップスをテープに編集して持ってきたのだが、あいにく父親は聞き飽きていて、見向きもしない。何気なく聞いてみた柴原先生が、すっかりはまってしまった。


「当時の洋楽はのどかなラブソングですから、思わず一緒に歌いたくなるんですね。でも歌詞カードがないので、一生懸命に書き取って合わせて歌っていました。今でいうディクテーションですが、とても全部は聞き取れないから虫食いがたくさんある。これが分かったのが高校の英語の授業です。『ああ、ここは仮定法過去なんだ。おお、意味が分かるぞ!』と理解できて、虫食いが埋まりました」。

大学で挫折を経験。帰国子女と渡り合うためには
柴原智幸先生

その後上智大学に入学した柴原先生はここで大きな挫折を味わうことになる。高校時代には英語では誰にも負けない自信があったのに、大学で周囲を見回すと、多くの帰国生を筆頭に自分よりもはるかに英語ができる学生ばかり。しかも授業では英語を学ぶのではなく、「君はどう考えるのか?」と英語を使って自分の考えを表現することに重きが置かれている。


「得意な英語は僕にとってシェルターのようなものだったのに、そのシェルターから先に破壊されてしまったような気がしました。だから当時はなるべく英語と距離を置きたかった」。


そんな悩みの中で先生はあることに気づく。それは、自分が帰国生に渡り合えるのは文法訳読式学習で築いてきた英語力があるからだ。


「帰国生の英語はレスポンスが速いし、ありとあらゆることに反応できますが、いかんせん「弾(内容)」が軽い。文法訳読式で育ってきた"純ジャパ"はいかめしいビッグワードを知っているので、その重い弾を使って一発で決めることができるんですね。大学の授業などでもそうした単語を使うことで、ネイティブの教授から"Good!"と褒められることがありました。例えば、クラスメートを褒める場合も、いつも"cool"ばかりではなく、"matured"とか"sophisticated"と言ってみました」。


例えば会話の中で仮定法が使われていることに気付くことで、"純ジャパ"は話者の心のひだを理解できるが、こうした文法理解についても帰国生は甘い。


「彼らは感覚で分かっているのであって、理屈では分かっていない。"純ジャパ"が勝負を決める機会はここにある。だから僕は文法訳読式英語、受験英語を学んでよかったと心から思っています」。


※純ジャパニーズ。当時の上智大生は、帰国生ではない日本人学生のことを「純ジャパ」、帰国生を「帰国」と称していた

世界に踏み出すためのツールとしてのHM

実は柴原先生、大学生の頃に「1000時間ヒアリングマラソン(HM)」で学習している。ただし正式に受講していたのは先生の母親で、家にあったHMを「これはいい! 僕がやる!」と横取りして聞き続けていたそうだ。このHMの魅力は「幕の内弁当的な豊富な内容」だと柴原先生はたとえる。


「毎月送られてくるマンスリーCDにしても『EJ』にしても、ドラマがあったり、インタビューがあったり、ニュースがあったりと、よりどりみどり。内容も軟らかいものから硬い話題まで本当にさまざまなものが盛り込まれています。例えばそれまでまったく知らなかったシーシェパードの話を聞いたのをきっかけに捕鯨問題に関心を持つかもしれない。そんなふうにHMは受講者の知的世界を押し広げてくれる最高の教材なのです。そして学んだ英語をツルハシとして使って、自分の透明な"繭"を打ち破り、これまで見たことがない新たな世界に一歩踏み出してほしいと思います」。


HM幕の内弁当の中の揚げ物が好きなら、それだけを食べ続けていてもいい。「でも好きなものを聞き流しているだけでは、いずれ限界が来るはず」と、柴原先生は続ける。


「そうした"量のリスニング"はもちろん必要ですが、限界を感じた時には"質のリスニング"をやってみてください。スクリプトと突き合わせながら、自分が聞き取れなかったところをチェックする精聴をすることで、弱点をつぶしていく。または単語をマーカーで色づけして確認したうえで、もう一度聞き込む。そうすることで、ボキャブラリーが増え、それまで聞き取れなかった英語の音も入ってくるようになりますよ」。

確かな英語力は泥臭い学習から

柴原先生は、最近注目を集めるコミュニケーション重視型の英語学習にも警鐘を鳴らしている。What's up?というあいさつを、わざわざ授業で習う必要があるのか。もっときちんとした話し方こそ、習う必要があるのではないか?



柴原先生が執筆する「トレーニング・ジム」は、 「リピーティング」や「シャドーイング」、「通訳練習」などを通して、聞く力と話す力を同時に鍛えるコーナー

「コミュニケーションばかりを重視していると、話す内容が幼稚になりかねません。話に慣れて一見流ちょうなようだけれど、よく聞いてみると文法はメチャクチャで意味が取りにくく、内容的にも大したことを言えていない。石ころをきれいにラッピングしてあるようなものです。日本人が目指すのはむしろ、たとえラッピングは新聞紙であっても、その中身がダイアモンドであることではないでしょうか。私たちが目指すべきなのは知的レベルの高い英語。英語は日本人にとってしょせん外国語であり、私たちはあくまで英語を使える日本人であることを忘れてはいけないと思います」。


例えば、アルピニストとしてエベレストに登ろうと思ったら、山に登る力を地道につけていくしかない。仮にエベレストの山頂までロープウエーが設置されていて、それに乗れば簡単に登頂できたとしても、それは自分の足で登ったことにはならない。英語学習もまったく同じだ。


確かな英語力を手に入れるために支払うべき対価はそれ相応のものであるべきです。つまり、時間もかかるし、努力もしなければいけないはずです。学生によく『先生、これをやると得ですか?』『英語をマスターできる学習法や参考書はありませんか?』と聞かれますが、英語学習においてそんなものはありません。そろそろ覚悟を決めて、泥臭く一歩一歩勉強していきましょう!」。



  1982年の開講以来、のべ120万人以上にご受講いただいている通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」。教材は、旬の素材を使って毎月新たに作られます。また、取り上げられるトピックも、ニュースや映画のほか、ドラマ、インタビューなどバラエティー豊か。だから、楽しく飽きずに無理なく英語学習を続けられます。

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