取材・文 杉谷知子
第4回 井上久美先生
profile

株式会社ヒア&ナウ代表取締役、Aクラス会議通訳者、(国立法人)北陸先端科学技術大学院大学客員教授。元上智大学教授。2003年4月から9月まで、NHK英会話「エンジョイ・スピーキング」講師。比較文化研究や同時(会議)通訳教育を異文化間コミュニケーション教育に統合させた企業研修と一般向け講座を開講している。4月25日に『英語で読む星の王子さま』(IBCパブリッシング)を刊行。5月末に洋書『Dictionary of Life for those who Choose to be Happy 』(IBCパブリッシング)を刊行予定。
※記事の内容は取材当時(2012年)のものです。
井上久美先生は、2014年にご逝去されました。心よりご冥福をお祈り致します。

自分の目的に合った素材で学習し、聞くときは諦めない

挫折を味わった中学時代。ブレークスルーのきっかけは......
井上久美先生

海外を飛び回る仕事をしていた父親の影響から、小さな頃から英語をペラペラ話せることにとても憧れていたという井上久美先生。しかし、私立のカトリック系中学に入学したところで最初の挫折を味わうこととなった。大好きで、大得意だと思っていた英語なのに、テストの成績でも、生徒が演じる英語劇の配役でも、帰国子女の同級生にどうしても勝てない。いつしか「私も海外で暮らせないかなあ」と思うようになっていたそうだ。


そんなときに父親がワシントンD.C.転勤に。もちろん先生は小躍りして喜んだ。「ワシントンD.C.ではパブリックスクールに入学しました。ところが、英語が全然聞き取れない。話すにしても"Is this a book?"、"Are you a girl?"と日本の教科書に載っているようなことを本当に言っていたので、クラスメートからは笑われたり、バカにされたりしていました」。


なんだかクラスメートの反応がおかしいと気づいた先生は、そのうち相手の英語が聞き取れなくてもすべてに"Yes."と答えるようになる。"Can I borrow your pen?"と言われてペンを貸すと返ってこない。お金を貸すと返ってこない。盗難のターゲットにもされた。


「アメリカに来たらすぐに英語がペラペラになって、少女漫画のような楽しい海外生活が送れると思っていたのに、とんでもなかった。とてもショックを受けて、そこからすごく暗い子になりました」。


その後も学校には休むことなく通っていたが、クラスではひと言もしゃべらなかった。ただ、耳に入ってくる英語は一生懸命に聞いていたそうだ。


「でもね、リスニングオンリーで、アウトプットがなかったから、聞き取れるようになるまですごく時間がかかった。やっぱりリスニング力やスピーキング力を付けるなら、インプットとアウトプットの両方を偏ることなくやっていくことが大切ですね」。


そんな暗黒期のブレークスルーのきっかけとなったのは同じ学校に通うインド人の女の子2人だった。「相手も同じアジア人だったからか、英語が分からなくても気にしないでいてくれて、一緒に遊ぶようになった」のだとか。そうするうちに、先生は英語が聞き取れ、自分でも話せるようになっていった。


「相手に"What?"と聞き返されても、くじけずに何度も言い直すことが本当に大事なのだと分かりました。コミュニケーションは2人の作業だから、相手にも協力する義務があるはず。もしも相手が協力してくれなかったら、こちらが怒ってもいいと思いますよ」。

リスニングの上達に"exposure"は不可欠

「旬の話題で本音トーク」 さまざまな文化背景を持つ話者たちの自然なやり取りを聞き取るコーナーだ。

リスニング上達の秘けつを井上先生は「とにかくexposureを増やすこと」だと言う。できるだけ、たくさん聞く。浅くてもいいから幅広く英語を身に付けたい人なら、例えばヒアリングマラソン(HM)や『ENGLISH JOURNAL』の中に登場する、世界各地の英語で話される、いろいろな話題がレベルアップに役に立つだろう。一方、忙しい人や、ビジネスなど英語を学ぶ目的がはっきりしている人なら、例えば特定の分野や地域の英語だけを聞くというように、exposureの内容を絞って学習した方が効率がいい。


一方で、井上先生は英語を楽しく学ぶことを強くすすめている。


「脳が一番喜ぶのはワクワクすることでしょう? 例えば私は映画が大好きだから、映画を見ながら、『この表現、get!』とメモを取っています。映画にはシーンがあるので、それが記憶に残って台詞も覚えやすいですよ」。


DVDで見れば、字幕をオンにしたり、オフにしたり、一時停止したり、繰り返して見たりといろいろな見方ができる。あるいは好きな俳優のせりふをシャドーイングすれば、その俳優さんになったような気分でハッピーになれるはず。


「ニュースで出てくる単語や表現は、一般の人たちが普通の生活の中ではあまり使うことがありません。だからスピーキングを重視するなら、ニュースばかりリスニングしているのではなく、HMなどの中から自分にとってpracticalな表現がよく出てくる素材を選ぶといいと思います。ただし、カジュアル過ぎる表現や汚い表現は、聞き取れるようになるのはいいとしても、アウトプットでまねをするのはダメ。丁寧な表現をきちんと使えるようにしましょう。


例えばあるとき、"I wanna ..."と言った井上先生に対して、イギリス人は"Are you an American?"と皮肉たっぷりでコメントしたそうだ。「イギリスではきちんと"I want to ..."と言うんですね。『アメリカ英語=グローバルに使われている国際英語』ではありません。話し方にしても、表現にしても、きちんと品性がある国際英語を身に付けてほしいと思います。そのためにはいろいろな英語になじみ、聞き取れることも大切ですね」。


最後に井上先生がすすめてくれたのは「エキサイティングリスニング」だ。「どうせならただ聞くだけではなく、『この人の言っていることを理解したい』『この表現はぜひ使ってみよう』など、好奇心を強く持ち、ワクワク能動的なリスニングをしてみてください。また、分からない部分があっても、そこでくじけない。『次は分かってやるぞ!』と集中力をより高めて聞き続ける。そうしているうちに、分からなかったところが後でポンと分かることもあります。だからとにかく諦めない。粘り強く聞き続けること。同時通訳をしている時も常に心がけていることです。リスニングはミステリーツアーのようなもので、絶対、どこかにclue(手がかり)が隠されているんですよ」。



  1982年の開講以来、のべ120万人以上にご受講いただいている通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」。教材は、旬の素材を使って毎月新たに作られます。また、取り上げられるトピックも、ニュースや映画のほか、ドラマ、インタビューなどバラエティー豊か。だから、楽しく飽きずに無理なく英語学習を続けられます。

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