世界で活躍する 国際派プロフェッショナル


異国で仕事をするには、まず語学と文化を学ぶことが必要


事務所内での共通語は英語。ベトナム人スタッフも英語が話せる人ばかり

「ベトナムで仕事をするには、ベトナムのことを知らねばならない。そのためには、まずは語学だ」。

そう考えた三木さんは、ホーチミン市内にある人文社会科学大学で、ベトナム語の個人レッスンを受けることにした。平日週5日、時間は朝8時から2時間。多忙な本業もこなしながら、これを約半年続けた。

「それに加えて、カフェで仲良くなったウェイターさんやウェイトレスさんに『あなたが暇な時にベトナム語の練習相手をしてくれないか』と頼んで、携帯電話の番号を教えてもらいました。空き時間ができると、カフェで話し相手になってもらうんです。もちろん、会っている間はベトナム語だけ。これも自分に課したルールです。そういう協力者が、多い時は10人以上いました」。

三木さんが、こういう時間を持つようにしたのには、もう一つ理由があった。「同僚のベトナム人弁護士と付き合うのは楽です。彼らは英語ができるので。でも、弁護士というのは特殊な人間だと思うんですよ。だからベトナムの普通の若者たちと話をすることで、ベトナム人の考え方、習慣、文化というのを知りたかったんです」。
彼らの運転するバイクの後ろに乗せてもらうこともあった。バイクの上から見ると、タクシーで移動する時とは違う、ベトナムの顔が見えてきた。



言葉や文化を学んでも、商習慣の違いには戸惑いが

ベトナム語を習い、ベトナムの文化を学んでいても、ベトナムでの弁護士業は予想外のことが多かった。

「まず驚いたのは法律書がないことです。日本であれば、基本書と呼ばれる専門書があり、過去どのような判決が下されたかをまとめた判例集もあります。これらを基に考えるわけです。それがないなんて、考えられないことでした。結局、法律でわからないことは管轄官庁の担当者に問い合わせるしかないんですよ」。

交渉にかかる時間と手間も、日本と比べると格段に多かった。三木さんの依頼主は日本の会社で、交渉相手はベトナムの会社。日本語から英語、英語からベトナム語へと通訳するために時間がかかる。契約成立までの交渉回数も多い。日本だとお互いに事前にしっかり下準備をしてから交渉に臨むため、弁護士が立ち会う交渉は1、2回で終わることがほとんどだった。ところが、こちらでは、事前に契約書を送っても、相手はまったく読まずに会議に出てくる。そのため、弁護士が立ち会う交渉回数も5~10回程度になる。

「私が最初に手掛けたM&A案件では、半年の間に40回ほど交渉を行いました。相手先の会社がハノイにあるので、そのたびにハノイまで飛行機で飛ぶんです。マイレージがゴールドになりました(笑)」。

ホーチミンとハノイの距離は日本の下関・青森間くらい。飛行機でも2時間かかる。そうしてハノイまで行っても、突然、約束がキャンセルされたり、仕事とは関係のない食事に付き合わされたりと、無駄足を踏むこともしばしばだったそうだ。



仕事が面白くて、滞在を延長。ベトナム事務所を立ち上げ、所長に就任

このような苦労は多いが、三木さんはベトナムでの仕事が気に入っている。「何と言っても、仕事のチャンスがたくさんあること。それから、それぞれの案件に深く関われることです。日本で弁護士は裏方。しかしこちらでは、企業活動全般に関与します。依頼主が工場を持っていたら視察に行きますし、依頼主の会社の宴会にも出席します」。

当初は1年間の実習予定だったが、日本の事務所に「ホーチミンオフィスを開設したい」と提案。それが認められ三木さんは、支所長を任されることになった。当初は乗り気でなかった奥さんも、今ではベトナム生活を楽しみ、ベトナム料理を習っているという。

「最低でもあと5年はベトナムにいるでしょうね」。
今後、自分を待ち受ける仕事に、ワクワクしながら思いをはせている。



ベトナム労働省副大臣他とのパネル・ディスカッション。英越の同時通訳のため、ヘッドフォンを着用

取材・文 中安昭人

マガジンアルク』2015年7-8月号掲載



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