世界で活躍する 国際派プロフェッショナル



公私共にパートナーの敬司さんと


店の一番人気はクロワッサン

コーヒー・ショップとベーカリーのいいとこ取りを目指し、敬司さんの作る最上級の焼き菓子を提供するカフェなら商機はあると悦子さんは考えたのだ。

しかし、すぐに軌道に乗ったわけではない。コーヒーの味にうるさいシアトルの人たちには、すでに「自分のお気に入りのカフェ」がある。それでもコツコツとやるしかない。ロースト豆の供給元は、いくつも吟味した中から選び抜いたお隣オレゴン州のスタンプタウン。エスプレッソ・マシンは、抽出温度の安定感で右に出るものはないといわれた地元シネッソ社製の逸品。バリスタたちが高い技術を維持するためのトレーニングも継続して行った。アートを積極的に取り入れるといった居心地の良い雰囲気づくり、好みに応えるパーソナルな接客など、シアトルで必要とされるカフェの要素全てを取り入れた。そして何より、敬司さんの絶品焼き菓子という、他のカフェにはないウリもある。

「シアトルの人たちはカフェでお金を使うのを惜しまないんです。自分の好みの味を覚えていて、毎回それを忠実に再現してくれるバリスタにはチップを弾んでくれます。こうした人たちがシアトルのコーヒー文化を支えていると感じますね」。

最新スポットというだけで人が集まる日本とは違い、最初は苦労した。だが、一度常連になれば長く付き合い、店を育ててくれる。




小さな気遣いを重ね常連客をつかむ

もちろん常連客をつかんでおく努力も欠かせない。注文や会計の時に交わす、何げないおしゃべりも大切だ。彼らのファーストネームはもちろん、今までの職歴から恋人の変遷、子どもの成長までをきちんと把握して、声を掛ける。そうした小さな気遣いを重ねることで、「お気に入りの店」であり続けることができるのだ。

「英会話が得意だったわけではないのですが、日を重ねるうちにお客さんとのやりとりを楽しめるようになりました。その反動で、休日は家から外に出ません(笑)」。

今年で開店から8年。ようやくひと息ついたという。開店当初、平日は別の会社で働き、週末はカフェに出ずっぱりで、1日1日をこなしていくのが精一杯だった。それが今では約20人の従業員を抱える大所帯だ。

「課題はスタッフの育成です。出勤時間を守るなど、日本の常識がアメリカでは通用しないことも多く、失敗ばかりのスタッフでも意識して長所を褒めるようにしなければなりません。ストレス耐性が常に試されている感じですね」。

今後はリクエストの多いグルテンフリーのものや、和テイストの焼き菓子のレシピ開発にも取り組んでいく予定だという。

あえてカフェの本場シアトルで勝負した悦子さん。彼女の言葉はコーヒーのように深く、濃く、味わいがある。



焼き菓子は、バラード店から車で10分ほど離れたフィニーリッジ店にも届けられる。悦子さんは配達、商品補充もこなす

取材・文 ハントシンガー典子
コーディネーション 海外書き人クラブ

マガジンアルク』2013年11-12月号掲載



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