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通訳ソーウツ日記

各界の現役通訳者が通訳現場のさまざまな話題やこぼれ話を語ります。


放送通訳へのチャレンジ

  神崎龍志(中国語通訳)


イラスト

2年ほど前、ある通訳仲間に中国語ニュースの放送通訳をしないかという誘いを受けた。ぶっつけ本番で生放送のニュースを同時通訳するなどというサーカスみたいなことは、自分には到底できないと思い、その時はお断りした。

そのうち、そのニュース番組で同時通訳が正式に導入され、何人かの仲間が放送通訳を始めた。しばらくたってから私にも再度声が掛かり、悩んだ末、今度は腹を決めてチャレンジすることにした。

引き受けた放送通訳は、オンエア前に、事前に映像をチェックできる「時差通訳」ではなく、完全生放送のニュース番組を30分間、二人体制でひたすら訳していくというもの。内容は、国内外のニュース、時事問題にスポーツ、芸術、動物の話題など何でもありだ。

会議通訳との最大の違いは、分野やテーマが絞られていないこと、事前に放送内容が一切わからないこと、そしてテレビを通して不特定多数の視聴者が見ているということ。

準備として、番組のアシスタントスタッフがあらかじめメールで送ってくれた、当日のニュースに出そうな記事と、現場に用意された資料に片端から目を通す。しかし、いくら資料を読んでも、ニュース項目は本番にならないとわからないので、それが資料の記事とぴたりと合う場合もあれば、本番中に初めて遭遇するニュースもある。その場合は、まず内容をざっくりと把握することに全神経を注ぐ。とはいえ、あまり聞かない名詞、例えば動物の「犰狳(qiúyú)」をすぐ「アルマジロ」に置き換えられなければ、その数十秒間のニュースはピントがずれたものになってしまう恐れがある。ただ、生放送なので、こうした手に汗握る瞬間は付き物であり、慣れるほかない。




通訳の総合力が求められる放送通訳

放送通訳の難しさは、①広範な分野の専門知識、幅広い名詞への対応力、②聞いた内容を瞬時に理解するリスニング力、③聞き取った内容を瞬時に的確な日本語に変換できる力、にあると思う。

①~③はどれも会議通訳にも当てはまることだが、何しろ内容の振り幅が大きいために、捉えどころがなく難しい。これまで私が扱った地域だけを見ても、アジア、欧米、ロシア、アフリカ、南米、中東と広範に及ぶ。聞いたこともない国名や地名が出てきて面食らうこともある。

また、個人的な課題もある。“口癖”だ。某情報バラエティー番組のお笑い芸人の司会者が、センテンスの頭に何度も「変な話……」という言葉を付けていて、違和感を覚えたことがあるが、私の口癖は「ですね」。通訳仲間には、「そして」が口癖の人もいる。

口癖は当の本人は無意識なので厄介だし、他人に指摘されてもすぐに直せるものでもない。本番中によほど意識しなければ口にしてしまうのだ。最近になって、私の「ですね」癖もようやく収まってきたように思う。

20年ほど会議通訳を経験し、さまざまな分野で手広く仕事をしてきて、ある程度平均的なパフォーマンスができるようになってきた。ただ、放送通訳にはそれとは別の、独特の難しさがある。時折、衛星放送で英語通訳者の生の放送通訳を耳にするが、自分はまだまだ力不足で、課題が多いことに愕然とする。



イラスト つぼいひろき
マガジンアルク』2014年1-2月号掲載

翻訳・通訳のトビラ

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