映像翻訳の最前線 作品を輝かせる良い字幕とは? NPO法人「独立映画鍋」主催「鍋講座」レポート

字幕・吹替制作会社の代表であり、映像翻訳に長年携わってきた赤松立太さん。今回の講座では映画監督の土屋 豊さんの司会進行で、日本の映像翻訳の歴史や字幕の制作プロセス、また現代の映像翻訳業界の問題点、映像翻訳者として活躍するためのヒントなどについて紹介した。

update:2017/07/07

日本の映像翻訳の移り変わり

写真:赤松立太氏

外国語映画を鑑賞する際、世界的に見ると吹替が主流だが、日本は戦前から字幕で映画に親しんできたいわば「字幕大国」だと赤松さん。1960年代にテレビ放送がスタートし、人気を博したアメリカのドラマでは吹替を採用。1990年ころまでは「映画は字幕」「テレビは吹替」が一般的で、制作会社やスタッフのテリトリーもはっきり分かれていたという。

「僕が映像翻訳の世界に足を踏み入れたのは1990年ですが、ちょうどこのころBS放送(NHK、WOWOW)が本格的にはじまり、テレビで大量の字幕付きの外国映画が放送されるようになります。90年代の終わりにはCS放送もスタートし、映像翻訳の需要が飛躍的に伸びていくとともに、業界の仕組みも大きく変わっていきました。フィルムの世界では、手書きに代わりレーザー印字が広がり、ビデオ編集では翻訳者向けの字幕制作ソフト『SST(Super Subtitling System)』などが登場し、字幕入れ作業のデジタル化が進んでいきました」

写真:赤松立太氏、土屋豊氏

2000年代に入ると地上デジタル放送やハイビジョン放送、さらに2010年代には映画の世界ではフィルムに代替するものとして「DCP(Digital Cinema Package)」が普及。さらに2015年から動画配信(ストリーミング)で、業界の黒船到来ともいわれる「Netflix」がサービスを開始し、映像翻訳の需要は拡大の一途をたどっている。

「1990年代末から映像翻訳の大量生産化が進み、短納期・低価格化の競争は激化しています。需要は増えましたが、翻訳制作にかける予算はむしろ削られ、制作サイドも限られた人員で仕事を回していくことになり、若手をじっくり育てている余裕もありません。そのため、今、映像翻訳業界は慢性的な品質の低下に陥っており、才能のある若手をどう育成していくかが大きな課題となっています」

字幕の良し悪しを決めるポイントとは?

写真:土屋豊氏

字幕翻訳は、原則的に全ての編集作業が終わった映像と最終の台本をもとに進められるが、翻訳者の腕の見せどころが「箱書き」。箱書きとは、映像を見ながら台本にあるセリフやナレーションを字幕ごとに区切り、通し番号を振っていく作業だが、字幕のリズムを決める重要な工程だという。

「映像の中で、話者のセリフの区切りや意味が明快なセリフが全体の約8割だとすると、残りの約2割では翻訳者の箱書きがものを言います。例えば、長ゼリフや複数の話者のセリフが重なっているときに、どれを採用するのか、文節はどう分けるかなどの判断をするわけです。主要人物のセリフも、重要でなければ字幕を入れないこともありますし、反対に一見『にぎやかし』に思えるようなセリフでも字幕を入れてキャラクターを出したりします。こうしたことで、意味の流れとリズムを作り出せます。映像翻訳は箱書きに始まり、箱書きに終わると言われるゆえんです。とりわけドキュメンタリー作品においては、演出面に大きく影響します」

写真:赤松立太氏、土屋豊氏

箱書きが終わったら、翻訳者の箱書きに合わせて、字幕データ作成ソフトで映像上での字幕の始点および終点(字幕を出すタイミング)を決定するスポッティングを行う。かつては、スタジオ側で行われたスポッティングだが、近年では、翻訳者自身がスポッティングをするケースが増えている。

「翻訳者はスポッティングで決まった尺(映像の長さ)を見ながら翻訳を作成し、字幕制作会社の担当者が、仕上がった訳文を字幕制作ソフトに入力します。なお訳文をはめ込みながら、訳に間違いがないか、尺と訳文の長さが合っているかなどをチェックし、修正すべきところを翻訳者に戻します。この作業を必要に応じて何度か繰り返し、字幕の精度を上げていきます」

パネリスト

写真:赤松立太氏

赤松立太 氏

(あかまつ・りゅうた)

映像翻訳者
制作会社パッソ・パッソ代表

1990年、映像制作会社に入社。主に放送用の字幕、吹替制作の翻訳、制作管理に従事。海外作品の日本語化に加えて、国内映像作品の海外向けの字幕や吹替えの専門チームを率いる。映像翻訳者としてだけでなく、映像翻訳者の養成や、字幕制作ソフト「EVC432、SST」開発への参加、バリアフリーによる映画鑑賞の研究事業メンバーとしての活動など、多方面から映像翻訳に携わる。

写真:土屋豊氏

土屋 豊 氏

(つちや・ゆたか)

映画監督

ドキュメンタリーやフィクション作品を監督し、国際的に高い評価を得る。インディペンデント映像作品の流通プロジェクト「Video Act!」を主宰。多様な映画を支え育む独立映画人の互助組織「独立映画鍋」の共同代表。