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翻訳業界を知るトビラ
出版翻訳への道

出版翻訳とは

出版翻訳とは、さまざまな言語で書かれた海外の出版物を日本語に翻訳する仕事。英語はもちろん、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、アラビア語、中国語、韓国語...など、世界のおもな言語はほとんど網羅しているといってもいいでしょう。訳した「作品」には自分の名前が入って書店で売られることもあり、翻訳を学ぶ人にとっては憧れの仕事のひとつです。

おもなジャンルと特徴

ジャンルは、まず大きく書籍と雑誌に分けられ、書籍のなかでもフィクション、ノンフィクションと大別できます。雑誌については、海外で刊行している雑誌の名をそのまま残し、「日本版」として刊行するケースと、記事単位で翻訳し、日本独自の雑誌に掲載する形などがあります。一般誌から専門雑誌まで、内容は多種多様。専門性の高い論文などは、実務翻訳者に翻訳を依頼する場合も多いようです。

書籍を見てみましょう。フィクションはいわゆる小説全般のこと。そのなかでも純文学系作品、SF、ファンタジー、ミステリ、ロマンスなど細かくジャンル分けされており、翻訳者はそれぞれ得意分野をもっています。また、読者対象でさらに分類するなら、一般向けと児童書というジャンル分けもできます。児童書には、おもに低年齢層を対象にした作品と、YA(ヤングアダルト)向けの作品があります。絵本も児童書の一角に入りますが、大人向けの作品も多く訳されています。

ノンフィクションとは、実用書全般のこと。ベストセラーをにぎわすビジネス書や自己啓発書をはじめ、著名人の伝記や評伝本、時事問題を扱ったものなど、時代のニーズに合わせて刊行される書が目立ち、刊行点数が多いぶん回転率が早いのも特徴です。加えて、思想・哲学などの学術書や、紀行文、映画やアートなどの評論、趣味の実用本、図鑑など、コンスタントに売れる分野があります。

最近の傾向

トーハン調べによる2010年上半期のベストセラー書を見ると、部門別ベスト10の文芸部門(単行本)で1作品(ダン・ブラウン『ロスト・シンボル』)が、ビジネス書部門で2作品がランクインしているものの、総合ベスト10では、残念ながら翻訳書は1冊もなし。出版点数そのものは大きく減少してはいないものの、全般的に売り上げ部数は伸び悩み、厳しい状況にあるといっていいでしょう。ただ、電子書籍などの販路拡大で、今後は「紙」にこだわらない新しい需要も見込めそうです。

ジャンルでは、ビジネス書、自己啓発書といったノンフィクションの刊行が多く見られます。日本の書籍でよく売れるテーマを反映させているのが特徴です。こうしたノンフィクションものでは、売り時期を逃さず刊行することが必須であるため、複数の下訳者が分担し、さらに監訳者がそれをチェックするという形で、翻訳期間を短縮させる方式をとるケースが目立ちます。新人翻訳者のなかには、まずは下訳者としてスタートしたという人も少なくありません。

時事問題では、引き続き環境問題が注目されています。エコライフの実践法といった比較的読者の間口の広いものだけでなく、専門性の高い書籍も増えつつあるのが特徴。今後もエコ、環境分野の刊行物はさまざまな形で展開されそうです。

フィクション分野では、ここ数年YAの健闘が目立ちます。海外での人気シリーズが日本でも人気になったこと、大人でも楽しめる作品も少なくないことなどから、幅広い読者層の獲得に成功しつつあるようです。また、比較的安定して売れているジャンルが、ロマンス小説。一時期ほどの勢いはないものの、いくつかの出版社が参入したこともあり、今後も一定の刊行が見込めそうです。

仕事の流れ

海外の出版物を国内で翻訳出版する場合、国内の出版社は、その出版物の翻訳権(版権)を獲得する必要があります。版権エージェントの仲介で、出版社が著作権使用料を支払う方式です。一般に、人気の高い作家、原書ほど高額になる傾向があります。

出版社では、日本でも多くの需要の見込めそうな本を探すため、まずはさまざまな原書に当たり、内容を吟味して版権取得を決めることになります。その際、原書を熟読し、概要や売れるポイントなどを評価するのが「リーディング」という仕事。出版編集者は、ジャンルや内容に応じて、翻訳者や下訳者、プロ予備軍などにリーディングを依頼します。

リーディングの結果、内容がよく、売れる手ごたえを感じた作品に関しては、版権を取得し翻訳者を選定。リーディングを担当した翻訳者がそのまま翻訳する場合もあれば、スケジュールの都合などで別の翻訳者に依頼することもあるようです。

翻訳者は、納期までに翻訳して編集者に納品。納期がタイトであるような場合は、何人かの下訳者が分担し、監訳者が全体をとりまとめる方法をとることもあります。編集者は内容をチェックし、不明点や不備な点については訳者に確認をとって修正を入れます。ひと通りの確認作業を終え、入稿すると、さらに校正者などの細かいチェックが入り、翻訳者が訳を確認・修正します。この形式を数回経て校了。製本されて本が完成します。

収入の目安

出版翻訳の場合、翻訳報酬の支払い方式には、印税方式と買い取り方式の2つがあります。印税方式の計算方法は、書籍の本体価格×刷り部数×印税率。印税率は出版社によって4~8%と幅がありますが、一般に大手出版社ほど印税率が高いようです。例えば、本体価格が1500円で初版の部数が5000部、印税率が6%の場合、支払われる翻訳料は45万円。本の売れ行きがよく、増刷(再版)される場合は、部数に応じて印税が支払われる仕組みです。

買い取りの場合は、最初に契約した翻訳料が報酬のすべて。その後増刷されても、報酬は支払われません。

翻訳枚数や字数計算で報酬を得る実務翻訳と比べると、コストパフォーマンスは高くないともいえますが、印税契約なら、本がベストセラーになればそのぶん収入も増えます。

プロになるには

仕事を得るには、出版社の編集者に実力を認めてもらわなければなりません。新人にとっては狭き門ですが、いくつかのルートが考えられます。まず、翻訳学校で学び、講師であるプロ翻訳者に実力を認められ、編集者に紹介されるケース。翻訳学校が出版社と提携し、オーディションなどの形でチャンスを提供することもあります。ほかにはコンテストに応募して入賞するケースもあります。最初は原書のリーディング、下訳や共訳という形でチャンスがまわってくることも多いようです。

また、実務翻訳者として実績を積んだ人のなかには、実用書の翻訳経験のある人も大勢います。ノンフィクション分野ではとくに専門知識が求められるため、翻訳会社を通じて、出版社がその道に明るい翻訳者に仕事を依頼する場合もあるようです。

訳したい原書がある場合、直接出版社に持ち込んで成功するケースもゼロではありません。とは言え、各出版社とも海外の出版情報をいち早く入手しているもの。持ち込んだ作品が面白くても、すでに別の出版社で出版が決まっているケースが大半です。また、持ち込みを受け付けていない出版社もあるので、事前に確認は必要です。

持ち込んだ作品は没でも、リーディングの実力やレジュメ、一部訳の正確さなどが編集者に評価され、まずはリーダーとして仕事を得られたという人もいます。

求められる資質

原書の内容を正確に理解し、それを日本語にしていく。簡単にいえばそれだけの作業ではありますが、実際は、想像以上に高度な技術の求められる作業です。

例えば同じ英語の書籍でも、ジャンルや内容によって原語の特徴は異なります。翻訳者はそれを正確につかみ、特徴に応じて語彙や文体を選定するスキルが必要です。そのためには、日ごろから多くの日本語表現のストックを作っておくことが大事。翻訳学習者の多くは、英語だけでなく日本語力の面でもかなりつまずくようです。

ジャンルを特定して翻訳している訳者が多いのも、そのジャンルについての知識や幅広い読書経験などが翻訳に大きく影響するからでしょう。例えばSF作品に深く慣れ親しんでいる翻訳者とそうでない翻訳者とでは、訳語の選定の仕方も変わってくるうえ、作品の世界観を正しく把握しているか否かで作品の仕上がりも異なってきます。そして読者は、そのジャンルが好きで読んでいる人がほとんど。同じバックグラウンドやそのジャンル特有の共通言語、共通感覚を持つ訳者のほうが支持されて当然なのです。

また、翻訳をする際には、膨大な量の調べ物が発生します。調査力をつけることも翻訳者にとって必須条件。何をどこで調べれば正確な情報が得られるのか、ルートをいくつか確保しておくことが大事です。インターネットで得る情報が必ずしも正しいとは限らないので、裏づけをとるための方法などもしっかり確認したいところ。図書館や博物館なども大いに利用し、通り一遍でない調査法を身につけることが望ましいでしょう。翻訳者のなかには、その専門分野のエキスパートに話を聞くなど、積極的に情報収集する人もいるようです。

もうひとつ忘れてはならないのは、決められた期日までにしっかり仕事を仕上げること。プロとしての基本中の基本ですが、案外難しいものです。1冊翻訳するのには時間も労力もかかります。スケジュール管理能力はもちろん、自己管理能力もしっかり身につけたいところです。

文:彌永由美



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