胎児はすでに音を聞き分け、生後10カ月で身ぶりを覚える
妊娠6カ月の胎児の聴覚はかなり発達しており、外部の音を認知できるようになっているといわれています。ある実験によると、母親がある詩を何度も朗読すると、胎児はその詩の音声的特徴(とくにイントネーション)を熟知し、母親以外の女性がその詩を朗読しても反応を示さなくなるといわれています。
最初は母親から幼児への一方的な話しかけで、幼児は母親の言葉を聞くだけですが、生後10カ月ころになると、はっきりとした「指さし動作(pointing)」ができるようになり、さらにものをあげたり、もらったりする、いわゆる「やりもらい関係」も成立します。
こうした身ぶりによる伝達は、成長とともにそこに言語表現が加わるようになり、最終的には言葉による伝達へと移行していきます。
●伝達様式 身ぶり⇒身ぶり+言語表現⇒言語表現
英語を学び始めたばかりの、いわば「英語学習の胎児期」である入門期の子どもには、英語の歌やチャンツを十分聞かせてあげましょう。歌やチャンツを通じて、英語のリズムや音調の基本的な特徴に慣れさせ、英語的な音感をやしなうことが大切です。(Lightbown & Spada,2006)。
また、英語を勉強し始めた子どもに対しては、できるだけ身ぶりを使って言葉かけをしましょう。
例えば、"Put it here."と言いながら、その場所を指します。そしてその後は別の場所を指して、"Move it over there."と指示します。"Stand up." や "Sit down."も両手を上に上げたり下げたりするジェスチャーをしながら指示します。
このように、初期の段階ではできるだけ言葉と動作をセットにして、指導するようにします。
【参考文献】
Lightbown, P.M. & N. Spada (2006) How Languages are Learned. Oxford University Press.
(※)チャンツ:英語をリズムに合わせて歌うように繰り返して覚えていく英語の練習法。手拍子などからだを使って リズムをとることで、「英語のリズム」が自然に身につきます。
★上記内容は「アルク 児童英語教師養成コース」 内の学習テキスト『子どもに英語を教えるための基礎知識1』の一部(言語習得論)を掲載しています。
伊藤 克敏 先生
神奈川大学名誉教授。青山学院大学文学部英語英文学科を卒業。フルブライト留学生として米国イリノイ大学大学院に留学、M.A.(言語学)を取得。また、ボストン大学教育学部心理言語学科、
カリフォルニア大学(Santa Barbara校)言語学科に客員研究員として赴く。日本児童英語教育学会(JASTEC)元会長、現顧問。英国国際教育研究所(IIEL)顧問。国際外国語教育研究会会長。
主な著書:『こどものことば―習得と創造』(勁草書房)、『小学校からの英語教育』(編著、研究社出版)など。