IJET-29大阪レポート

「地域でフリーランス翻訳者の縦と横のつながりを育む」

Posted August 10, 2018
講演日時:7月1日(日)9時~10時

登壇者:藪田真弓 YABUTA Mayumi

写真:藪田真弓さん

シャープ(株)奈良工場の社内翻訳および大阪の文具メーカーの社内翻訳・通訳を経て、現在はビジネス文書の英日翻訳をはじめ、日本企業の海外展開や外資企業の国内展開、インバウンド観光対応を支援する業務に携わる。「ワイズ英語サービス」代表。

登壇者:藤原誉枝子 FUJIWARA Yoshiko

写真:木村博子さん

シャープ(株)の液晶部門、ドキュメント部門にて社内翻訳を経験後、現在はフリーランスの翻訳者として、機械、社会科学系論文、契約書、観光、美容・健康、鉱物など、幅広い分野の実務翻訳を手掛ける。2017年5月IA NLPトレーナーコース修了。「サニーサイド翻訳事務所」代表。

登壇者:今吉玲子 IMAYOSHI Reiko

写真:佐藤晶子さん

特許事務所で外国出願実務、書類翻訳を担当。中学校での非常勤講師(英語)経験あり。2014年から英語、18年から中国語の通訳ガイドとして稼働。外国関連の特許業務請負に加え、英語講座や英語散策イベントなどを主催。

フリーで働きながらネットワークの強みを得る

写真:藪田真弓さん、木村博子さん、佐藤晶子さん

翻訳者や通訳者は、企業に所属していない限り、フリーランスとして個人で働くのが一般的だ。そんな“個人”がチームを組み、ネットワークを作ってつながり合えば、グループならではのメリットが生まれるはず。会社ではなく、フリーランス同士でチームを組むことのメリットは、フリーランスで働く自由さと、グループで仕事を獲得する力の両方を手に入れられること。それを実現しているのが、奈良県にある『なららん』こと「ならランゲージサポート」だ。

『なららん』は、奈良に縁のあるフリーランス翻訳者・通訳者が集うネットワーク。本セッションに登壇したのは、『ならランゲージサポート』を中心になって率いている、薮田真弓氏、藤原誉枝子氏、今吉玲子氏。それぞれ、勤めていた企業で翻訳を担当し、実務を重ねた後にフリーランスとして独立した。その後3人でチームを組み、翻訳やインバウンド向けの通訳事業を展開している。

『なららん』の発足のきっかけは、奈良へのこだわり

写真:藪田真弓さん、木村博子さん、佐藤晶子さん

「『なららん』を発足したそもそもの理由は、翻訳者である自分たちのスキルを、地元の奈良のために生かしたいと思ったからです」と薮田氏。薮田氏は大手家電メーカーや文具メーカーの翻訳担当を経て独立したが、観光客が大勢訪れる奈良でなら、インバウンドに特化した翻訳業務ができるのはないかと考えていた。そんな思いを募らせている最中、同じくフリーランスの翻訳者である藤原氏から「フリーランサーに仕事の声かけをしやすい環境を一緒に整えませんか?」と相談を受けたという。そこに通訳ガイドとして活動していた今吉氏も加わり、チームが発足した。

「奈良の人は“大仏商法”の言葉が指すように、大阪や京都に比べ集客にあまり先行投資をしない傾向があります。英語表記の観光案内は少ないですし、表記していても妙な英語が多いのです。それを見て『私たちは語学の仕事をしているのに、地元の役に立てていないな...』と感じていました」と話すのは藤原氏。逆に言えば、観光案内や飲食店のメニューの翻訳など、大手が手を出していない部分に自分たちが持つスキルを活用していけば、地域で発生する翻訳ニーズを満たせるのではないかと気づいたと言う。

ネットワークを作るメリット

写真:藪田真弓さん、木村博子さん、佐藤晶子さん

ネットワークを通してつながりができると「個人ではまかなうことのできない短所を補える」のがメリットの一つだと藤原氏は言う。

一つ目は、こなし切れない仕事もネットワークとして受注できることだ。一人でこなすことのできる仕事には上限があるが、他のメンバーに仕事を依頼する体制が整えば、仕事を断ることが少なくなる。発注者に迷惑をかけることもなくなる。

二つ目は、情報を共有し合うことで一人ひとりの情報量が増すこと。「普段の翻訳に使っている辞書は何か?」「どんなやり方でスキルアップをしているのか?」など、個人で調べると時間も手間もかかることが、ネットワークのメンバーに聞けばすぐに分かる。

そして三つ目は、クライアントからはなかなか得られないフィードバックを、ネットワークのメンバーが担ってくれること。「フィードバックがないと、自分の翻訳が良かったのか悪かったのか分かりません。ですが、クライアントやエージェントからフィードバックをいただける機会はなかなかありません。『なららん』で他のメンバーの翻訳に触れていると、自分の翻訳をどのように改善したらいいのか気づきますし、直接『こうしたらいいのでは』というアドバイスを受けることがあります。そうやってメンバー全員のスキルアップにもつなげられるんです」

人材育成で、翻訳者・通訳者を育てる

写真:藪田真弓さん、木村博子さん、佐藤晶子さん

『なららん』に属しているのはプロ翻訳者として経歴年数が長いメンバーであるが、他に、仕事を始めたばかり、もしくは翻訳者の卵である人もメーリングリストに名前を載せることを可能にしている。未来のプロ翻訳者も育成するため、『なららん』ではセミナーを開催したり、月に1度の勉強会を実施している。セミナーに関しては今後は有料の自主主催講座を定期的に行うことを企画している。

通訳ガイドである今吉氏は、英語学習者向けの語学講座を実施している。海外からのお客さんからどんなことを聞かれ、どのような説明をしているのかといった実践的な事柄や、日本語特有の言い回しを英語で表現するコツを紹介している。

奈良県内の企業が集まった職業体験イベント『ジョブスタNARA』にも出展した。会場では、絵本の翻訳体験を実施したそうだ。「翻訳」というと語学が苦手な人にはハードルが高く感じられがちだが、絵本なら子どもにも好まれ、大人も親しみやすい。訳文穴埋め形式で、多くの参加者が積極的に取り組んでくれ、翻訳への新たな認識を得てくれたようだ。

奈良の特性を生かしたインバウンド事業

写真:藪田真弓さん、木村博子さん、佐藤晶子さん

外国人向け対応サービスは、インバウンドに特化した『なららん』にとって重要な事業だ。観光産業が発達している奈良県において欠かせないものである。商店街や交通会社など、外国人観光客と接する場面が多い現場では、英語対応が必至となりつつある。そんな中、『なららん』から商店街に対して「英語接客のお悩み相談会をしませんか」と提案をした。「例えば、飲食店であれば『おかわりはどうされますか?』といった簡単な表現を英語で言えるだけで、外国人観光客へのサービスの充足度が高まります」(今吉氏)

今吉氏は、英語付きの観光マップを作りたいと考えているとのこと。地元の雑貨屋の店主に「分厚いガイドブックではなく、周辺のおすすめスポットが書いてある簡単なチラシやマップがあればいい」とアドバイスを受けたことがきっかけとなり、発案したという。「『そんなマップなら有料でも買う!』と言ってもらいました。奈良在住の人間の視点を生かしたマップがあると、面白いと思います」。

一人ひとりができることには限度があるが、チームになればできることも情報量も格段に広がっていく。『なららん』(ならランゲージサポート)の試みが他の地域でも拡散していくと、地方在住のフリーランス翻訳者、通訳者の仕事の幅が広がり、ポテンシャルも高まっていくのではないだろうか。

ならランゲージサポート

ならランゲージサポート

ホームページには、提供できるサービス内容や料金、依頼の流れなどが記載され、初めて依頼する人にもわかりやすい作りになっている。
http://naralang.com/