通訳者・平山敦子のガジェット天国

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第14回|「流行語」知って増やそうボキャブラリー!!前編

update:2017/12/05

気づいたらタイトルで一句詠んでいましたね。失礼致しました(笑)。というわけで、今回は世界の「流行語」ウェブサイトを入り口にして、楽しみながらボキャブラリーを増やしていきます。

日本の流行語大賞

流行語といえば、2017年の「流行語大賞」(正式名:ユーキャン新語・流行語大賞)が近々発表されます。12月1日ですから、この記事の掲載される頃にはもう決まっているかも知れません。30語がノミネートされ、オフィシャルサイトで見ることができます。

うーむ・・・「うんこ漢字ドリル」や「ハンドスピナー」は流行「語」というより、話題となった「商品」なのでは?!「流行」と謳いながら選考委員会に若者が一人もいないのは何故?!などなど、とめどなく湧き上がる野暮なツッコミはさておき(笑)。

まずは検索

言葉を扱う仕事をしているからには、知らない言葉があればネット検索してみるのは基本中の基本。その知識が後々どこかの現場で自分を救ってくれるかもしれませんからね。

というわけで、さっそく一つ検索してみましょう。

「うつヌケ」これ、マンガのタイトルなんですね。最初の2話だけですが、無料で読めます。ちょっと得した気分。

うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち~ 第1話

「自身がうつに苦しんだ経験のある漫画家の作品タイトル」に由来する「自己肯定によるうつの克服」という意味ですね。内容もなかなか興味深く、早速Kindle版の単行本を購入してしまいました。

「流行」したかはともかく(笑)、耳慣れない言葉はこうやって検索してみると、一つひとつの裏に様々なドラマがあり、興味深いですね。

ダメ元で英語でも

今度は別のワードを「英語で検索」してみましょう。筆者はよく暇つぶしに色々な「ヘンな日本語」を英語の綴りで検索して遊んでいます。そこで「英語を母語とするライター」の記事に出会えたらラッキー。

例えばさきほどの「うんこ漢字ドリル」を”unko kanji doriru”で検索して見つけたこのサイト。
Spoon & Tamago “Poop: an unlikely savior for kids learning kanji”

日本語の記事の英訳ではなく、日本のことをよく知らない人のために「説明」してくれているというのがポイントです。

日本の小学生にとって漢字の勉強がどれだけ大変なことか。日本人にとっては当たり前すぎて見過ごされがちですが、そもそもこの前提が分かっていないと、キッズの「救世主」たる「うんこ漢字ドリル」の意義は伝わりません。「クレイジーな日本人がまたヘンな物を作った」で終わってしまう可能性があります。

こうした「訳しようのない言葉」を「説明」せざるを得ない状況、ありますよね。そんな時、的確かつ端的に「解説」するのって、発想力の問題というか、「通訳」とは全く違うスキルであると思うのです。こうした文章を日頃から読んでいれば、異文化の人たちにも分かるよう解説する「切り口(視点)」のストックも蓄積され、とっさの「瞬発力」を養うことができるように思います。

「うんこ漢字ドリル」も、例えば “By combining scatological humour - children’s all-time favourite jokes - with educational content, it turns the painstaking process of learning kanji characters (over 1000 in 6 years!) into an entertaining experience.”とでも言えば少しは伝わるでしょうか。クレイジーであることに変わりはないような気もしますけど(笑)。

Word of the Year

海外にも「流行語大賞」に相当するものがあります。“Word of the Year”と検索すると数多くヒットします。略して「WOTY」と呼ばれたりします。

日本の「流行語大賞」が、どこか90年代の「広告コピーコンテスト」を彷彿させる趣であるのに対し、WOTYは「一つのキーワードでその一年の世相を総括しよう」というジャーナリスティックな姿勢を感じさせます。その年に登場した新語である必要もないし、日本の「流行語」とは似て異なるものと考えたほうが良さそうですね。

アメリカのWOTY

Wikipediaによると、英語圏のWOTYで最も歴史の古いのがAmerican Dialect Society(ADS, アメリカ方言学会)のものです。Dialect(方言)といっても、テキサス弁やニューヨーク訛りではありません。イギリス英語やオーストラリア英語などに対する「北米英語」くらいの意味です。

こちらは毎年1月の頭に発表されるため、執筆時(2017年11月)で最新のWOTYは2016年の“dumpster fire”です。学会オフィシャルサイトによると「非常に惨憺たる、あるいは混沌とした状況」という意味。これだけでは、なぜ2016年のワードに選ばれたのかピンと来ませんね。言葉の成り立ちにさかのぼって詳しく調べてみましょう。

まず、dumpsterとは路上にある「蓋付きのゴミ置き場」のこと。イメージが沸かない方は画像検索してみてくださいね。イギリス英語の“skip”と似ています。この「ゴミ置き場とごみ運搬用コンテナを足して二で割った」ような画期的なシステムは、1930年代にDempster Brothersという会社によって考案されました。dumpsterは、その社名とdump(ごみ、廃棄物)を組み合わせた造語です。同社のごみコンテナの名称として商標登録され、のちに、このタイプのごみ箱全般を指す普通名詞として定着しました。

“dumpster fire”も画像検索してみましょう。文字通り炎上するdumpsterの写真がずらり。これが本来の意味です(建設廃材の焼却などでない限り、原因はほとんどが放火かと思われます)。

それがここ10年ほど、主にスポーツ関連の報道において、試合内容や監督の采配、リーグやシーズン全般について語る際に「惨憺たる状態」の比喩として使われるようになりました。

dumpster fire
画像引用元:Huffpost

そして2016年、大統領選挙戦が佳境に入るとともに、その「状態」を反映してか“dumpster fire”が選挙関連の記事の見出しに登場する頻度が激増しました。

ヒラリー対トランプの選挙戦から始まって、ドナルド・トランプ氏の選挙運動、ひいてはトランプ氏本人(!)について語る際の決まり文句として定着。とうとう1年を総括する単語として選出されるに至ったわけです。

さて、2017年のADSのWOTYにはどんな言葉が選ばれるのでしょうか。

イギリスのWOTY

一方イギリスでは、大手辞書出版社が健闘しています。例えば、Collins Dictionary

こちらの最新WOTYは2017年の”fake news”。その意味は説明するまでもありませんね。fake news自体はエイプリルフールなどのジョークの類として何年も前から存在していましたが、ブレイク(?!)のきっかけはこれまた米国大統領選とトランプ大統領です。行き過ぎたネガティブキャンペーンの手段として利用され、日本のメディアでも盛んに報道されていました(ご参考:BS1ワールドウォッチング)。

イギリスの権威ある辞書 Oxford DictionariesもWOTYを選出しています。

最新のWOTYは2016年の“post-truth”です。"post-truth politics" として2010年にアメリカのオンラインマガジンの執筆者がブログ記事の中で使い始めたもので、大統領選やイギリスのEU離脱の国民投票をきっかけに爆発的に広まりました。日本でも「最近の政治は『政策』でなく『政局』で決められていく」などと批判されたりしていますが、この「政局」の代わりに「イメージ」や「感情論」など入れると“post-truth politics”の意味に近くなるかもしれません。

これが転じて、政治に限らず、客観的な事実よりも感情や信条(人々の思い込み)などによって物事が決まっていく様子を“post-truth”と呼ぶようになりました。ツイッターなどSNSの普及により、特定の感情がかつて無い速度で広まり世論が形成されてしまう・・・そんな世相も反映されているようです。

こちらも、年明けに発表される2017年版WOTYが楽しみです。

Word of the Day

Oxford Dictionaries

Oxford Dictionariesには「Word of the Day」というコーナーがあり、1日1個、レアな単語をピックアップして解説してくれます(今日の単語は“apian”「ミツバチの」という形容詞でした・・・笑)。ツイッターやFacebookでフォローすると毎日届けてくれるのでお勧め。

このほか、ネットやアプリストアで“word of the day”と検索すると、日替わりで面白い単語を届けてくれるサービスがたくさんヒットします。自分に合ったものを見つけてぜひ、活用してみてくださいね。

まとめ

今回最も印象に残ったのは、イギリスの辞書サイトの予想外の面白さでした。過去のWOTYや、惜しくも大賞を逃した他の候補ワードの成り立ちや用法の変遷など、読んでいて飽きません。BLOGSも純文学から麻薬取引用語まで多岐にわたるテーマで読み応え抜群!!

ネットの普及によって前代未聞の速さで新しい言葉や用法が生まれ、広まり、れっきとした正しいボキャブラリーとして定着する時代になりました。辞書の編纂者はもう「紙とデジタルの戦い」なんて言っている場合じゃありません。やることは山ほどあるようですよ。もちろん通訳者も!!

日本の辞書も頑張ってね・・・・・。

年明けには「後編」として、新たに選ばれた「流行語大賞」と米英のWord of the Yearをご紹介します。お楽しみに!

Profile

平山敦子

Atsuko Hirayama

会議通訳者。得意分野は司法、軍事、IT、自動車など。元米国大統領、経済学者など著名人講演の同時通訳も多数。この仕事を目指したきっかけは大学在学中のアルバイト。スポーツイベントのバイリンガルスタッフとして働いていたが、ある日現役のプロ通訳者と同席、その仕事ぶりを目の当たりにし衝撃を受ける。

「私もこんな風になりたい!」とアルバイトに精を出す(?!)うちに、いつしかそれが仕事に。通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。

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