通訳者・平山敦子のガジェット天国

通訳者・平山敦子のガジェット天国

第17回|新年特別記念号☆全部見せます!!ヲタクの仕事道具(中編1/2)

Posted April 10, 2018

前回に続き、三部作の中編です。ちょっと長いので中編は2回に分けてお届けします。

まずは前回ご覧頂いた画像から。

私の仕事道具一式

「中身をぶちまけてみた」の図

この中で今回ご紹介するのは④です。

他の通訳者とペアやチームを組む仕事では必ず出動します。1人でやる場合も「何となく一筋縄ではいかない予感(笑)」がする時は、念のため持っていくようにしています(登山に例えれば、登る時期や山によっては日帰りの行程でも泊まりの装備を持っていったりしますよね。そんな感じでしょうか・・・って説明になっていますかね)。

とりあえず「中身をぶちまけてみた」の図。これらを一つひとつ説明していきますね。

ポーチ

1.ポーチ
無印良品 ナイロン手付コスメケース・大 黒・約12×21×8cm

同時通訳や長時間の逐次通訳では、集中力の持続時間を考慮して複数の人員で交代して業務にあたりますが、その「交代」が「席替え」を伴う場合が多々あることをご存知でしょうか?

同通ブースにはたいてい「通訳する人」と「待機・補佐する人」の2名分の席が用意されます。それを3人で回す場合、こんな感じになります。

「通訳する人」と「待機・補佐する人」
イラスト:平山敦子

逐次通訳でも「通訳する人」が最もやりやすい席(よく話す人の隣やスクリーンが見やすい位置など)に座ることが多いため、たとえ人数分の席が用意されていても、交代のたびに席を替わったりします。

さりげない合図(「目配せ」「マイクに手を添える」「タイマーをリセットする仕草を見せる」など)で交代しますが、一旦パートナーに引き継いだら、なるべく邪魔しないよう速やかに、そして静かに「撤収」することが肝心。まさに「風林火山」でいう「疾(はや)きこと風の如く」そして「徐(しず)かなること林の如く」であります(笑)。

そんな時、ペンやタイマーなどの私物を素早く仕舞ってスマートに移動するには、こうした持ち手があると便利。この無印良品のポーチはメイク道具を携帯するためのものですが、メイクブラシ収納部の縫い目をほどいて幅を広げたり、透明のビニールの部分にカッターで切れ目を入れて紙類を収納できるようにしたりしてカスタマイズしています。全ての持ち物を定位置を決めて収納できるので、サッと取り出せて重宝しています。

こうしたポーチをわざわざ買わなくても、今お使いのペンケースを小さなトートバッグ(「ランチトート」)に入れて運んでもよいと思います。

2.タイマー

通訳者の交代は「時間単位」や「(資料の)ページ単位」、「一問一答」など様々な方法があり、状況によって使い分けます。詳しく説明していると「ガジェットの記事」でなくなってしまうので割愛しますが、どの場合においても上手くやる(技術的にも、対人関係的にも 笑)ための基本は同じ。

  1. 自分の担当をちゃんとこなす
  2. スムーズに引き継ぐ
  3. パートナーの担当を尊重する

「ページ単位」や「一問一答」なら誰がどこを担当するかはっきりしていますが、「時間単位」の場合は何らかの「計測手段」が必要となります。そこで活躍するのがタイマーです。

(タイマーについては過去のリレーコラム第12回 お悩み別、通訳者のためのガジェット活用・仕事術(お悩み3「怖い先輩が苦手!」)で詳しくとり上げました。また、他の通訳者と組んで仕事する際の心得や要領については、同じく「翻訳・通訳のトビラ」で連載の「通訳者・関根マイクの業界サバイバルガイド」に分かりやすく書かれており、とても参考になります。そちらも併せてご覧になってみてくださいね)

「サバイバルガイド」で関根マイクさんも書いているように、15分交代なら「15分過ぎて最もキリの良いところ」で替わるのが、現在の主流だと思います。ちなみに昔(10年ほど前まで)は「15分が近づいたら」交代していました。こうした変化の裏には、実はガジェット的な事情があります。

タニタの「長時間タイマー」
タイマー界のレジェンド?!
タニタの長時間タイマー

昔々、通訳界では、テレビディレクターが持っているようなストップウォッチが主流でした。そこに誰からか使い始めたタニタの「長時間タイマー」が広まり始めました。立てて使うことができるため、ストップウォッチより見やすく、新しもの好きの通訳者達はこぞって買い求めたものです。

でもこのタイマー、ランプはおろか消音スイッチもついておらず、カウントアップせざるを得なかったのですね。カウントダウンすると時間が来たらアラームが鳴り響きますからね(ちなみに私は分解してスピーカーのワイヤーを切って使っていましたけども。笑)。

その後、ドリテック社のT520T549のような「お知らせランプと消音スイッチ付きのタイマー」が出回るようになって、通訳者の間で爆発的に広まりました。そんなわけで、現在は「カウントダウンして自分のタイマー(←ここ大事!)のランプが点滅したらパートナーと交代」することを好む通訳者が(少なくとも私の周りでは)大多数を占めています。

タイマーを使って点滅ランプで知らせて・・・ここまでして厳密に管理する理由はなんでしょう? 通訳者間の負担を平等にするためでしょうか? 違います!! 数分、ましてや数十秒の通訳をすることになろうがなるまいが、目くじらを立てる通訳者はいません。重要なのは「交代のタイミングの予測可能性」です。あるいは、予測を可能にするための「一貫性」や「規則性」といってもよいかもしれません。

まだかまだかと思っていたら急に振られたり、逆に今か今かと待っているのになかなか替わる気配がなかったりすると不快に感じるものです。それはどっちが何秒多くやったとかやらなかったとかいう「不平等」が原因ではありません。「自分の番が予期せずやってくること」がストレスなのです。

タイマーは、パートナー間の「平等のため」ではなく「交代のタイミングを共同管理するため」のツール。お互いにストレスなく業務を遂行するためには、可能な限りタイマーの時間を尊重し、一貫性を持って交代することが円滑…もとい円満(笑)な連携の秘訣です。

とはいえ、経験の浅い通訳者はそれどころではないかもしれません。訳すので「いっぱいいっぱい」でタイマーなんて見ていられない、と。だったら少しでも分かりやすいタイマーに助けてもらおうではありませんか。・・・でも残念ながら「通訳用タイマー」なんてものは存在しません。料理や計算ドリルなど別の目的に向けて作られたものを流用することになります。

私が思う通訳者にとって理想のタイマーの条件とは・・・

  • 消音機能
  • 自立スタンド
  • カウントダウン
  • カウントアップ
  • 大きく見やすい画面
  • シンプルな操作
  • 点滅ランプ(通訳に夢中になっていても気づくように!)
  • 秒単位のカウント(コンマ秒単位だとせわしなくて気が散るのです。)
  • 小型
  • 軽量
  • 電池交換の手軽さ
  • 電池の入手性と価格
  • 電源オフスイッチ

これら全てを満たすタイマーを求めて、色々な製品を試しましたが、数字がデフォルメされていて見にくいとか、電池交換が手だけでは無理(1円玉などの硬貨が必要)とか、うっかり変なボタンを触ったら暴走するとか(笑)、一見良さそうでも必ず何か一つ二つ足りないのです。

「キャンドゥ」のキッチンタイマー

あと一歩という「惜しい」タイマーの一つに「キャンドゥ」のキッチンタイマーがありました。カウントアップもダウンも両方できる。電源オフのスイッチもついている。形や重さも完璧。なんと言ってもお求めやすい100円というお値段。これを何とかカスタマイズできないかと考えました。その結果がこちら。

消音スイッチはありませんが、本体をこじ開けてスピーカーのワイヤーを切れば音が鳴らなくできます。スタンドは付いていないけれど、本体裏のマグネットとダブルクリップの合わせ技で解決。写真のように、2段階の高さ調節だって可能です。

電池はLR1130でしたがふたの裏をカッターで削り、より厚くて大容量のLR44が入るようにしました。こちらの方が入手性もよいし、なぜか値段も同じか安いくらいです。

残りはランプ。こればかりは一筋縄ではいきませんが・・・ふと、スピーカーの替わりにLEDランプをつないだらどうか、と思いつきました。スピーカーがついていたワイヤーをLEDにハンダ付けでつないで見たら・・・見事に点滅!

こう書くと簡単なようですが、ここに至るまでには開発の苦労話があります。理論上、LR44の電池では電圧が低すぎてLEDは点灯できないと言われています。実際、秋葉原のLED専門店を何軒か回って相談しましたが「そんなの無理」と軒並み却下され・・・。諦めかけていたなか「赤色(のLED)は電圧が多少低めでも点く」という情報をネットで見つけ、ダメ元で試した結果でした。嬉しかったです。青色LEDを発明した人の気持ちが分かりましたね(笑)。

・・・と、これではタイマーの購入を検討している方にとって全く参考にならないかと思いますので、市販されている中で私が考える最強のタイマーをご紹介しておきます。前述の2つはもはや「鉄板」ですが、こちらもお薦めです。

OHM電機 時計付きデジタルタイマーCOK-TD10-A

電池交換がしづらい(1円玉などがないとふたを開けられない)のと、少し重たいのが惜しいところですが、それ以外の条件は全て満たしている素晴らしいタイマーです(オフスイッチはありませんが、時計モードになります)。この「10分ボタン」はかなり重宝しますよ。

3.イヤホンとプラグ類

イヤホンとプラグ類

1)イヤホン

どんな製品を選ぶにせよ、同時通訳用のイヤホンは音楽鑑賞用とは違った基準で検討するべきです。でないと、オーディオの世界で高い評価を得ている高額イヤホンを購入したのに効果はイマイチ、なんてことになりかねません。具体的には「人間の声」そして「自分の声」の聴こえ具合がポイント。

例えば、B&Oにはこの「3i」とよく似た「A8」というモデルがあります。音楽鑑賞により特化した上位モデルで、スマホ通話用のマイクや音量コントローラも付いていません。

2万円前後する「3i」より更に値段が張りますが、同通で使ってみると「3i」のほうが優れています。

イヤホンとプラグ類
B&O Play Ear Set 3i

「3i」は人の声がエッジが立って聴こえ「脳裏に音の残像が刻まれる感じ」がするのに対し、「A8」の音は丸みを帯びた、いわゆる「いい音」ですが、耳に残りにくいと感じます。(iPhoneの形に例えれば「3i」が「5sやSE」なら「A8」は「6sや7」でしょうか。注意して握りしめていないと手の中からすべり落ちてしまいそうな感じ?!)この違い、すぐには分かりにくいのですが、数時間経過したあたりからじわじわ来ます(笑)。

もう一つ大切なのは、自分の声がどう聴こえるか。耳栓のようになっていたり、耳を完全に覆って密封するタイプのものは、自分の声がよく聞こえなかったりするものもあります。ヘッドホンで音楽を聴きながら歌を歌うとヘタクソになりますよね。それと同じで、ある程度自分の声は自分で聞こえていたほうが上手く話せるんじゃないかと思います。

とはいえ、イヤホンの音と自分の声の配分で最もやりやすいと感じるバランスは人それぞれ。得意とする周波数帯域も、もしかしたら人によって違うかもしれません。ノイズキャンセリングの技術も日々進化して、密閉タイプでも自分の声が適度に聴こえるようになってきています。

やはり店頭で試せるものなら試してみるのが一番。その時は音楽ではなくスピーチやニュースをYouTubeなどで再生し、実際に少し訳してみる(あるいは「シャドーイング」してみる)ことをお薦めします。

ただし一つ警告しておきます。自分にものすごく合ったイヤホンに出会ってしまうと、もう元には戻れません!! これは覚悟しておいたほうが良いです。かくいう私も元は「A8」ユーザーで、何不自由なく満足して使っていました。今はもう、ガジェットの記事を書いている身でありながら、この「3i」が好きすぎてイヤホンの研究が全く進まないのですよ(笑)。

2)各種変換プラグ

様々なオーディオプラグがありますが、通訳者が注目すべきは以下の4種類です。

様々なオーディオプラグ

ステレオとモノラルの見分け方は、ジャックの先にペイントされた線の数。1本ならモノラル、2本ならステレオです。

スマホに挿すタイプのプラグは1の「ステレオ・ミニ」。このタイプのイヤホンをお持ちの方がほとんどではないかと思います。同時通訳で出かけて行った先にもこの差込口があれば苦労はないのですが、必ずしもそうはいかないのが現実。

私の勝手なイメージですが、「ミニ」プラグが「『一般人』が音楽を気軽に楽しむための簡易版」なのに対し「標準」プラグは「『音のプロ』御用達の本格派」ってことなのでしょうか(AV機器に標準ジャックしか付いていないと「素人お断り」って言われているような気がしてしまうのは私だけ?! 笑)。同通機器も一応「本格派機材(?!)」なのか、差込口は3の「ステレオ・標準」がほとんどです。最近はミニプラグを直接挿せるような機器も少しずつ増えていますけどね。(同通機器メーカーが「通訳者は一般人」であるという事実にようやく気づいたのでしょうか。笑)

変換プラグはたいてい音響業者さんが機材と一緒に用意してくれていますが、備え付けのヘッドホンのケーブルと一体化していたり、別の通訳者がうっかり自分のヘッドホンと一緒に抜いて持ち帰ってしまってなくなっていたりすることも。やはり自分でも持っていたほうが安心です(私は自分のプラグだと分かるようにマスキングテープでデコっております)。

一方、クライアントの社内設備となると、それはもう、モノラルで片耳からしか聴こえてこないこともあれば、ジャックのサイズも色々で、とにかく何でもアリです(笑)。

以上をまとめると、通訳者が検討すべき変換プラグの種類は以下の3つ。

変換プラグの種類

ジャックのサイズ

A) ステレオミニ→ステレオ標準

最も使用頻度が高いのがこれ。細いプラグを太くして「標準」の差込口に挿せるようにします。

B) ステレオミニ→モノラル標準

モノラルの音源にステレオイヤホンを挿すと片耳からしか聴こえてきませんが、この変換プラグを使うと両耳で聴くことができるようになります。モノラルの機器自体が最近はレアなので、登場は少ないですが、たまに必要となります。ちなみに片耳しか聴こえない時の応急処置としてはジャックを「半差し」すること。両耳から聴こえる位置がありますので、そこを探りましょう。

C) ステレオミニ→モノラルミニ

必須ではありませんが、あると便利です。(その理由は後編で!)

3)延長コードと分配プラグ

フォーカスグループなど、市場リサーチ会社が主催するインタビューの通訳で注意しなければならないのが、会場の設備です。専用の会議室でマジック・ミラー越しに同時通訳するのですが、普段は日本語のやり取りを日本人がモニターするための設備です。会場によっては、なんとイヤホンを挿す所が一つしかなかったりすることも(画像参照)。

フォーカスグループ

こうした状況で誰かと交代する場合は、パートナーのイヤホンを抜いて、自分のイヤホンを挿し直さなければなりません。交代のたびにそれをやっていると、聞き漏らしたりもするし、何より神経がすり減ってしまいます。そんな時、分配プラグがあると便利。延長コードがあればさらに完璧です!

オーディオテクニカ ヘッドホン延長コード1m

JVC オーディオ分配プラグ

4)イヤホンとプラグのケース

プラグ収納のための別ポケットが付いており、冒頭でご紹介した無印良品のポーチにうまく収まるイヤホンケースをずっと探していました。文具店や電器店に立ち寄るたびにチェックしていたのですが、なかなかこれと言ったものが見つからず・・・。ある日たまたま立ち寄ったエスニック雑貨店で偶然これを発見しました。ファスナー付きの外ポケットといい、クッション性といい、サイズといい、ラスタなカラーといい(笑)ほぼ完璧といってよいでしょう。

イヤホンとプラグのケース

柄は違いますが、ネットでも買えます。

エスニックのマーブルマーケット

アジアンマーケットKURISP

あえて言えば、このネット通販の品揃え、色使いをどうにかして欲しいところですが・・・って、エスニック雑貨店でそんなこと言ったら怒られちゃいますね(笑)。

中編2/2に続く

Profile

平山敦子

Atsuko Hirayama

会議通訳者。得意分野は司法、軍事、IT、自動車など。元米国大統領、経済学者など著名人講演の同時通訳も多数。この仕事を目指したきっかけは大学在学中のアルバイト。スポーツイベントのバイリンガルスタッフとして働いていたが、ある日現役のプロ通訳者と同席、その仕事ぶりを目の当たりにし衝撃を受ける。

「私もこんな風になりたい!」とアルバイトに精を出す(?!)うちに、いつしかそれが仕事に。通訳界では知る人ぞ知るガジェットおたく。パフォーマンスを最大化してくれる優れモノの道具を求め日々研究中。

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