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現役通訳者のリレー・コラム

かみ合わないQ&Aの要因

投資家が発するQは、その投資家が持っている仮説に基づいています。

投資家は、その企業、その業界、あるいはアベノミクスや日本そのものなど、ミクロからマクロまで実に様々な「ああじゃないか?こうじゃないか?」といった仮説を持っていて、それを検証するためにIRミーティングをリクエストします。

一方、日本企業の側はどうか?

特に私が最近専門にしているディール案件(IPOや公募増資)においてそうですが、その企業のマネジメントの方々がなんとしても投資家、ひいては世の中に伝えたいストーリー(Equity story)があります。そのストーリーが正しく、かつ説得力をもって投資家に伝われば、資本市場における株式の購入・保有につながり、ディールが成功します。

そう考えると当たり前ですが、QとAがかみ合うのがベストです。でも、残念ながらQとAがなかなかかみ合わないこともしばしばです。

QとAがかみ合わないとき

QとAがかみ合わないとき、その一番の原因は何か?

投資家の質問が分かりにくい、回りくどい、前置きが長い、アクセントがひどい、あるいはそもそもその企業にあまり興味が無いからでしょうか。

そういうこともあるでしょう。

もしくは、日本企業の担当者が、分かりにくい、回りくどい、結論をなかなか言わない、あるいははなから答える気など無く、お茶を濁そう、逃げようとしているからでしょうか。 そういうこともあるでしょう。

でも、IRミーティングでQ&Aがかみ合わないほとんどの場合、その責任は通訳者にあると思っています。これは自分の通訳を振り返ってもそうだし、自分以外の通訳者が通訳する場を無数に見てきたことを振り返ってもそうです。

IR通訳がQ&Aの通訳である以上、「上手なIR通訳」とはどのような通訳かを考えた場合、一つの答えとして「QとAをかみ合わせる通訳」があると思います。

なぜ、一部の通訳者は投資家や日本企業からとても喜ばれ、「ぜひまたあなたと仕事がしたい」と言われ、実際継続的に指名が舞い込むようになるのか。中には通訳経験が浅いのにそのような境地に行っている人もいます。それはなぜか。

「QとAをかみ合わせる通訳」をしているからだと思います。

その一方でなぜ、通訳が上手とされ、もちろん実際に上手なのであろうベテラン通訳者が、ことIR通訳においてはなんだか鳴かず飛ばずのまま他の通訳分野に「卒業」していくことがあるのか。「QとAをかみ合わせる通訳」をしないからだと思います。

IRミーティングを成功に導く通訳者とは?

IRミーティングは、一見定型的なようで、実は無限の広がりを持っています。

それもそのはずで、世の中にはいろいろな投資家、いろいろな企業が存在し、それぞれがいろいろなQ、いろいろなAを発します。そんな、常に変化し続けるQとAをかみ合わせ、IRミーティングを成功に導くお手伝いが出来るのはどんな通訳者かというと、そのミーティングという「場」、その参加者、そしてその一つひとつのQ、Aの流れと変化に合わせ、自分の通訳スタイルを自在に変化させられる人だと思います。

そうした変化を拒絶、あるいは無視し、あくまでも自分の通訳のスタイルを貫くのは、ある意味カッコイイし、ちょっと憧れますが、そのやり方でIRミーティングの参加者を喜ばせるのは難しいと思います。私の頭の中でもそう思うし、実際に世の中で起きている現実を見てもそう思います。

いいIR通訳とは、通訳学校、通訳エージェント、先輩通訳者、そしてこれまでの自分の経験に基づき構築されてきた通訳観を捨て去り…。いや、捨て去らないまでも一瞬ちょっと脇に置いておき、その場で求められているスタイルや動き方を

  1. 瞬時に察知し、
  2. それを上手に提供することで、
  3. QとAをかみ合わせ、すばらしいラリーを生み出す通訳のことをいうのだと思います。

そしてそれは、能力の問題でもありますが、それ以上に意志・意欲の問題だと確信しています。

丹埜段さん
Profile/

IR通訳会社アイリス代表。10年間のサラリーマン生活を経て、2008年に通訳者に転向。数カ月フリーランスを経験した後、インハウスのIR通訳者として野村證券に入社。3年間、海外の機関投資家に同行して日本国内のあらゆるセクターの上場企業を回り、約1,500件のIRミーティングの通訳を行う。2012年に独立し、IR通訳に特化した通訳会社アイリス(IRIS)を設立。引き続き海外投資家との国内案件を行いつつ、2013年からは日本企業に同行して海外を回るIRロードショーに注力し始める。2014年には、1兆円弱のエクイティ・ファイナンス(IPOやPO)に通訳者として参加。

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