特別企画

日本初の同時通訳エージェントが始めるキャリアサポート制度 後編

優秀な会議通訳者の育成をより強化するために、サイマル・グループが今年から導入しているキャリアサポート制度。そのねらいと詳しい内容について、サイマル・グループの吉野久美子さんと加茂やよいさんに聞いた。

Posted April 1, 2019

特待生制度を導入し受講生を金銭面でサポート

特待生制度は、サイマル・アカデミーの「会議通訳コース」受講生から優秀な人を選抜し、同コースの受講料を全額免除するとともに、サイマル・インターナショナルの専属通訳者として登録する機会を提供するというものだ。サイマル・インターナショナルHR事業部の吉野久美子さんは、導入のねらいをこう説明する。

HR事業部

「通訳訓練は短期間で習得できるものではなく、平均して2~3年を要します。プロの通訳者を目指して学ぶ方を数多く見てきましたが、残念なことに、中には金銭的な不安から道半ばで諦めてしまう方もいました。また、働きながら学んでいる方でも、通訳の現場でトレーニングを積む段階になると、前職よりも収入が下がってしまうこともあります。特待生制度を導入したのは、こうした金銭的な負担を少しでも軽減したいという思いからです」

特待生は、試験の成績や学習意欲、資質やスキルなどを総合的に考慮して年に2回、選抜される。会議通訳コースの授業料は34万9,920円(2019年3月現在)。この金額が全額免除されるというから、特待生にとって大きな助けとなり、また励みになることは間違いない。「本気で通訳者を目指す人に、あと一歩というところの後押しをしたい」と、吉野さんは意欲を見せる。

安心して実績を積むための技能契約社員制度

プロの通訳者としてデビューした後も、独り立ちするまでの道のりは平坦ではない。同じくHR事業部の加茂やよいさんは、こう話す。

「トレーニングの段階ですごく優秀な方でも、プロとして軌道に乗るまでにはある程度の時間を要します。実績がないうちは、仕事の依頼が入ってきづらいのです。そして、実地訓練の機会が少ないと、通訳の技術は落ちてしまいます」

そこで同社が導入したのが、技能契約社員制度だ。この制度は、会議通訳者を目指してトレーニング中の人を、サイマル・グループで人材派遣紹介事業を行う株式会社サイマル・ビジネスコミュニケーションズの契約社員として登用し、長期間の派遣就業で通訳の実務経験を積んでいくというもの。派遣社員として働く場合、派遣契約のある期間以外は収入がなくなってしまうため、常に次の契約の延長を気にしながら働くというデメリットがある。しかし、技能契約社員に登用されると、1年間は契約社員としての収入が保証されるため仕事に集中できる。実績を積んでスキルアップすれば、より高度な仕事にもチャレンジできるようになるはずだ。「技能契約社員制度を利用することで、収入面での不安を感じることなく安心してスキルを高め、実績を積み上げていってほしいと考えています」と、加茂さんは期待を寄せる。

人数規定は特にないが、年に数名程度の選抜を想定しているという。技能契約社員には専属の担当者が就き、伸ばすべきスキルは何か、どのような経験を積んでいけばいいかといったきめ細かなアドバイスが行われる。キャリアコンサルティングを通じて、金銭面だけでなく、精神面においても充実したサポートが受けられる仕組みとなっている。

OJT制度とワークショップでさらなるスキルアップを

サイマル・グループでは、ほかにもさまざまな形でキャリアサポートを実施している。そのうちの一つがOJT制度。サイマル・アカデミーで「通訳コース/通訳II」以上を受講中の人を対象に、サイマル・インターナショナルへの登録機会を提供し、レベルや希望に応じた仕事を紹介している(※東京校/英語のみ)

「授業中のトレーニングも大事ですが、現場に出て本番の緊張感を体験してもらうことで、さらなるスキルアップにつながります。OJTで経験した業務は、プロになった後も実績としてアピールしていただくことができます」(加茂さん)

もう一つは、サイマル・アカデミーで随時開催しているワークショップ。社内通訳者やプロ通訳者向けに、サイマル・アカデミーを修了したかどうかにかかわらず、さらにスキルアップを目指す人なら誰でも参加できる。決算、金融、放送といった分野ごとに通訳ニーズの高い通訳ワークショップや、医薬品・医療機器の開発分野に関するセミナー、韓国語、ロシア語の通訳ワークショップまで、多彩な内容が用意されている。

「プロになった後はなかなか勉強の場がないものですが、このワークショップでは、プロを目指す方だけでなく、すでにプロとして活躍されている方にもスキルアップの機会を提供しています。今後もサイマル・アカデミーでは豊富な経験を活かし、ハイレベルなワークショップを開催していく予定です」(吉野さん)

さらに、サイマル・インターナショナル登録者のみを対象としたワークショップも開催している。こちらは新たな試みとして今年から始まったばかりだが、これまでに翻訳支援ツール「Memsource(メムソース)」の講習会や、ウィスパリングのワークショップを実施。「育成校では扱わないような内容も取り上げていきたい」と、加茂さんは抱負を語る。

最後に、通訳の道を志す人へのメッセージを伺った。

「通訳の仕事は、これまで以上に二極化していくのではないかと思います。とりわけ日本語と欧米言語は違いが大きいため、機械ではなく人間にしかできない高度な仕事は今後も残っていくでしょう。本気で通訳者になりたいという人には、私たちも本気でサポートしていくつもりです。少しでも通訳の仕事に興味のある方や、通訳者になった後もスキルを伸ばしていきたい方には、ぜひ、サイマル・アカデミーやサイマル・ビジネスコミュニケーションズの門戸を叩いてみていただきたいです」(吉野さん)

◎特待生に聞く:小林理沙子さん

特待生に選ばれて、
間違いなくモチベーションが高まった

小林理沙子さん

アメリカに住んでいた幼少の頃から「どうすればこの表現をもう一方の言語に言い換えられるだろう?」と考えることが多く、やがて通訳という仕事に興味を抱くようになりました。

日本に帰国後、一度は社会人経験を積もうと外資系証券会社に就職しました。結婚を機に退職し、家庭との両立を考えて本格的に通訳者の道を志しました。

サイマル・アカデミーの体験授業では先生方の熱のこもったご指導に魅了され、その場で入学手続きをしました。前職の証券会社でも、グローバル・カンファレンスではいつもサイマル・インターナショナルに通訳を依頼していたので、「通訳といえばサイマル」という認識がどこかにあったのだと思います。

自分が特待生に選ばれたと知ったときには、うれしさと同時に恐れおののくような感情もありました。サイマルは業界の中で最も責任の重い仕事を請け負うエージェントの一つなので、その階段の一番下に立つチャンスをいただけるということはまさにthrillingであり、同時に恐れ多いことでもあったからです。

授業の予習・復習は以前からしっかりとするほうでしたが、実践では自信のなさが声に現れることがありました。特待生に選んでいただいてからは、スピーチの本で勉強し、声の「聞こえ方」も意識するようになりました。自分に課すハードルを少し上げることで、以前よりも明瞭な同時通訳ができるようになったと感じています。特待生に選んでいただいたことで、学習へのモチベーションがより高まったことは間違いありません。

フリーランスの通訳者として現場に出るようになって感じるのは、サイマルの授業を通じて「本物の実力」が身についたということです。正確に訳出するスキルはもちろんのこと、さまざまなジャンルの教材を使ったトレーニングによって、通訳者としての汎用性も高まったと思います。

今後は、サイマルの専属通訳者として恥ずかしくないレベルまでスキルアップすることを目指します。そして、20年後、30年後には、サイマル・アカデミーの先生方のように第一線で活躍できるようになりたいと思っています。私の修行はまだ始まったばかり。これから通訳者を目指す方も、一緒に頑張りましょう!

>> 日本初の同時通訳エージェントが始めるキャリアサポート制度 前編

取材・文:いしもとあやこ
撮影:森脇 誠

取材協力

株式会社サイマル・インターナショナル

国際会議の同時通訳、官公庁・民間企業における通訳・翻訳業務で定評のあるサイマル・インターナショナル。その教育機関として1980年にサイマル・アカデミーが設立された。

プロ通訳者・翻訳者に必要とされる実践的なスキルを習得する「通訳者養成コース」「翻訳者養成コース」のほか、プロのスキルアップのための「ワークショップ」「セミナー」など多彩な講座を設けている。無料体験レッスンあり。

HR事業部
吉野久美子さん(写真右)
HR事業部
ジェネラルマネージャー

加茂やよいさん(写真左)
HR事業部 リソース支援課
マネージャー

小林理沙子さん
通訳者養成コース修了生
小林理沙子さん

Profile/8歳から18歳までアメリカで過ごす。慶応義塾ニューヨーク学院卒。慶應義塾大学法学部政治学科卒。米系証券会社勤務を経て、2017年4月よりサイマル・アカデミーで通訳訓練を開始。受講中からフリーランス通訳者として稼動。2018年夏、サイマル・アカデミーの特待生第1号に認定。2019年3月に同校の「会議通訳コース」を修了、サイマル・インターナショナル専属通訳者に認定。