この連載では、これまでに新学習指導要領が目指している方向性や、入試改革による英語の4技能試験の導入、さらにアクティブ・ラーニングなどについて説明してきました。
「知識・技能」に加えて、「思考力・判断力・表現力等」や「学びに向かう力・人間性等」を身につけさせるためには、唯一の正解を求めるような「教え込む」教育から、生徒たちの創意工夫や自由な発想に委ねるような「引き出す」教育に転換する必要があります。そして、生徒たちから意見や考えを引き出すためには、その前提として「考える内容」が不可欠です。
これは英語の授業でも言えることなのですが、これまで多くの英語の授業では教科書の各課で扱われているさまざまなテーマについてはあまり注目せず、その課の目標となる文法事項や新出単語にばかり目が向けられていました。つまり、「何を言うか」よりも「どう言うか」に重きが置かれていたのでした。
一方、1990年代中頃のEU発足後のヨーロッパでは「母語+2言語」という多言語化政策が実施され、使える外国語能力を身につけるために科目横断型の学習を行う「CLIL(内容言語統合型学習)」という手法が広がっていきました。
例えば、理科の時間に動物について学んでいる子どもたちは、その内容と合わせるように動物の名前などを外国語などでも学んでいきます。そして、野生の動物の数の変化を示すようなグラフを使いながら絶滅危惧種の問題について話し合います。
このように書くと難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は、グラフの数字を指しながら、There are 100,000 tigers in 1900. / There are 3,200 tigers in 2010. のように説明していけば、動物の名前と数字に加えて There is/are ~の構文だけでこのような話題について話をすることも可能です。
CLILでは言語と内容が同じ比重で大切にされます。つまり「どう言うか」と「何を言うか」がどちらも重視されるのです。また、グループ活動などの協働学習を通じて自分なりの意見が常に求められるため、協調性や思考力も鍛えられることになります。
近年、日本でも小学校から大学に至るまで全てのレベルの学校でCLILの手法に注目が集まっているのは、ここで培うものが新学習指導要領で求めている資質や能力と一致しているからです。
「単語や文法を覚えて終わり」ではなく「その単語や文法を使ってどのような考えを表現するのか」が重視される教育がまもなく始まろうとしています。
<著者プロフィール>
藤田 保
上智大学言語教育研究センター教授。専門は応用言語学(バイリンガリズム)と外国語教育。アルク キッズ事業アドバイザー。
NPO 小学校英語指導者認定協議会(J-SHINE)理事。著書に『英語教師のためのワークブック』『先生のための英語練習ブック』(共にアルク)。
【お詫びと訂正】
6月7日配信のVol.7「入試における外部試験の活用」の中で、下記に誤りがございました。読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びし、謹んで訂正させていただきます。
(誤)2020年度に大学入試を受けるのは今年の中学2年生です。
(正)2020年度に大学入試を受けるのは今年の中学3年生です。
※アルクでは、「アルク Kiddy CAT英語教室」に通う生徒の保護者向け情報誌 『えいごのじかん』をお配りしています。本企画はその冊子から、メルマガ読者の皆さんに紹介したい記事を取り上げ、再構成したものです。 |